はったり模擬授業実践試論

こんにちは、クロゾフです。今日は誰でも簡単にパフォーマティブ、つまり実力以上のパフォーマンスを見せることができる(=はったり)模擬授業の方法について書こうと思います。

模擬授業とは?

教員を志す学生さんや現職の先生方は、折に触れて「模擬授業」を課せられることがあるのではないでしょうか。学校なら採用試験だったり研修だったり、塾なら社内イベントとして開催されていたりすることもあるでしょう。私は昔勤めていた塾の模擬授業イベントで、受賞経験があります。金一封もらって、その翌年やめてしまいましたが。模擬授業は、教育関係者にとっての避けても避けられない慣例行事だと思います。

改めて考えてみてほしいのですが、「模擬授業」とは一体何なのでしょう。

先に僕の考えを述べておくと、あれはまったくもって「模擬」授業ではないということです。どういうことかといいますと、たとえば「模擬試験」なら、実際のテスト形式に則って、センターならセンターを、2次試験なら2次試験を模した内容になっているはずです。
しかしながら、「模擬授業」の場合、目の前には生徒に似ても似つかない管理職や同僚、試験官が我々を見つめていて、「授業の一部」を短い時間、だいたい10分ほどだと思いますが、それをなんの脈略もなくやるわけですから、これは非常に特殊です。
さらに、教員採用試験の2次試験では、模擬授業の1,2時間前に突然ある単元を振られ、たかだか数時間という短い時間のみならず、資料もなにもない状況で授業準備を行うわけですから、こんなことは教員生活において、よっぽど多忙か、怠惰か、相当の実力者(みたいな人ほど、授業準備をおこならないものですが)にしか起こらない稀有な状況と言えます。

ある実践者が培ったであろう教育的技能というのは、果たしてその10分で遺憾なく発揮することができるものでしょうか。正攻法では、不可能と言っていいでしょう。なんなら、さきほど「相当の実力者」なる存在を仮定しましたが、その方が日常的に行っている授業の一部を完全に再現したとしても、「模擬授業」においては、高い評価を得ることはまず不可能と、僕は言い切ってもいいとさえ思います。

つまるところ、私が言いたいのは、「実際の授業」の評価と「模擬授業の評価」は違うということです。この「評価」という観点は後ほど詳しく書くとして、ここで言いたいのは、「模擬授業は授業の再現ではない」ということと、「模擬授業はパフォーマンスである」ということは述べておこうと思います。

模擬授業の評価とは?

では実際、模擬授業で評価されているものとはなんでしょう。ここではまず、評価されないものについて触れようと思います。ひとつはっきり言えるのは、「教科の専門性は評価されない」ということです。さすがに間違ったことは言えないですが、それでもその知見の深さ、専門性などというものは、評価されないというか、評価し得ないのです。あなたに渡された時間は10分です。そこで専門的な知識をひけらかすかのような講義のようなものをしようとでもすれば、落第不合格ボーナスカットまで引き起こす悲惨な結果を残すことになります。
我々がそこで見せなければならないのは(というか見せることができるのは)「教育的技術」であって「教育的技能」ではないのです。「技能」とはいわば、ある仕事を熟す能力で、これは結果が物を言うところです。「教育」において、その結果とはすなわち

人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成

というようなことであって、それは10分では到底評価できるはずがないのです。それ以上の時間があっても、実際問題不可能でさえあります。
「技術」とは継承が可能であり、継承が可能であるということは、それは客観的なものであり、客観的であるということは、つまりそれは評価がすることができるということです。今から述べるのはこの「教育的技術」についてです。

前置きが長くなりましたが、一般的な「模擬授業」において、以下の点に配慮をすれば、あなたは間違いなく「模擬授業」で失敗することはなくなるでしょう。大きく「教育的技術」は、大きく3つグループに分けることができると考えています。「配慮」「指導」「こなれ感」というまとまりで、述べていこうと思います。

「配慮」 ”私は生徒思いの先生です”

1)声掛け
 これはわかりやすいところですが、大事なところです。ある種のパントマイムとも言えるでしょう。例えばプリントを使った授業を仮定したなら「プリントは全部で2枚、裏表です。手元に2枚届いていますか?裏表、しっかり印刷されてる?大丈夫?全員あるね。」なんて声かけを行うだけでも、印象は良くなります。黒板で板書するなら、色覚異常に配慮して「今から赤色使うなぁ。」とか、視力の弱い子に対して「後ろの方、ここちょっと小さい文字使ってるけど、見える?」なんてわざとらしく声をかけることを「一度でもいいので」見せることが重要です。実際、一回行えば、何度もする必要はありません。なぜならあなたはその「配慮」を垣間見せ、印象づけたからです。

2)机間巡視
 これもパントマイムですね。これ、実際の授業のように、試験官がしっかり書いてるかなんてのを気にする必要はありません(試験官のプリントを変に扱うと、予定調和が崩れるおそれがあるので、「触らぬ神に祟りなし」です)。
あくまで仮想の生徒、さらに言えば、仮想の机でさえいいので、「机間巡視してますよ」というのを見せつるけることが大事で、さらに重要な「指導」への伏線にもなります。なんなら、「お、いいこと書いてるね」とか「ここんところ、もう少し考えてみて」なんてうわ言をつぶやくのも、若干くどいですが、悪い手ではありません。大事なのは「私はしっかり実際の生徒を想定して模擬授業をやっていますよ」ということなので、そういうわざとらしさも、大事な場面なのです。

3)生徒は具体的になにをする?
 これは「こなれ感」にも通じるのですが、例えば板書を書く前に「ちょっとペンを離して、こっち向いて」とか「じゃ、板書写して」とか「移し終わったら顔を上げて」とか、「いま生徒は具体的に何をしているのか」を観客に見せつけるのは大事です。一指示一行動なんて言葉がありますが、これは結構観客が見ているものです。これに関して言えば、例えば発問に際しても、具体的な質問が喜ばれます。例えばですけど、「敬語ってなんだろう」なんていう問いかけは評価が低いです。漠然としていて、生徒の戸惑いが目に見えるようです。「敬語ってどんな場面で使うだろう」なんていうのはいいですね。具体的で、答えやすい発問です。いかに生徒を具現化するか、幻を見せられるかが、一つ模擬授業で課せられる課題といっていいでしょう。

「指導」 ”私は完璧な指導者です”

1)声の強弱遅速、畏まった話し方、くだけた話し方
 よく通る声の人と、くぐもって聞こえづらい人っていますね。これは生得的なものですし、致し方ありません。しかし、双方に言えるのは「声の強弱遅速話し方を使い分けること」です。よく声が通る人でも、一本調子で美声を響かせても、それは加点につながりません。くぐもって聞こえづらい人でも、強弱遅速を使い分ければ、相対的に聞こえやすくなります。
実際の場面でいうと、例えばなんらかの問いかけの場面では、声を弱めることをおすすめします。そして更に言えば、それはくだけた口調のほうがいいです。「〇〇って、なんなん?」(生徒がやんやと答えを言った前提で)「そうだね、プロテインだね」みたいにさらっと正解を共有する、なんてのもありです。
ちょっと想像してほしいのですが、声を強にして、なおかつ畏まった言い方で問いかけると、生徒たちはだいたい膠着します。なぜなら、そこには「手を上げて発表」という予感が常に伴うからです。畏まった言い方には、畏まった言い方で返してしまうのです。でもまぁここは模擬授業なので、そういう経験的なものは必要ありません。
観客は、現代の風潮もあって、あまりこういう講義式の授業を好みません。いや、自治体、所属するコミュニティにも寄るのかもしれませんが、それでも大事なのは、ここで「あ、声を/話し方を使い分けているな」という印象そのものです。
さらにいえば、「一本調子ではない」ということの方が重要かもしれません。観客を飽きさせてはいけません。そうです、これはパフォーマンスです。常に「次は何が起こるのだろう」とワクワクさせなければなりません。

2)間違う生徒
 模擬授業は予定調和ですから、我々の生徒は頗る優秀なのですが、正解はとっておきましょう。それよりもむしろ、生徒が間違える前提があったほうがいいです。あなたがなにか問いかけをしたとき、完璧な回答を得て授業が進んでも、別に減点の対象にはならないでしょうが、加点につながるわけではありません。むしろ観客は、生徒が間違えたほうが喜びます。いかに正答に導くか、もしくはいかに次の展開につなげるか、そういうポイントを用意することで、加点するイベントを作り上げることができます。
先程述べた「机間巡視」を行ったあと、「〇〇っていう回答と、□□っていう回答が多かったけど、どっちが正しいんだろうな。」とか、「気になった回答は、誰とはいわんけど、△△っていう回答があったね。」なんて共有するだけで、「お、しっかり生徒を見てるな」ポイントに繋がります。
おすすめは、「間違いを再度生徒に投げかける」ということです。「今、〇〇さんは、□□と述べました。みなさんはどう思いますか。」なんて。さらに「ちょっと隣の人と話してみて。」なんて付け加えるのもいい手でしょう。「配慮」を付け加えるなら、このご時世、「しっかりマスクして、移動せずに周りの人と話してね」なんて付け加えれば、観客はスタンディングオベーションを送ってくれるかもしれません。
その後にさらっと答えを述べて、次の展開に続けるだけで、自作自演の加点ポイントでがっぽりです。

3)「間」を恐れない
 模擬授業では、ついつい「話し続けなければならない」と思い込んでしまうものです。実は先程述べた「声の強弱遅速、畏まった話し方、くだけた話し方」にも通じるのですが、これらを強調するためにも「間」を意図的に入れ込むのもいい手です。時間の問題もあって、これを演出するのは難しいのですが、例えば「独り言のような問いかけ」を行って、その後に5秒ほど時間を取り、その間に「生徒たちの表情を見ていますよ」というように、教室獣を舐め回すように眺める、なんてことを行うと「あ、生徒の視線、興味を集めてるな。」という演出につながるのです。

4)使えるもんは使っとけ!
 自治体や所属するコミュニティによっては、ICTを利用した模擬授業なんかも選択肢に入ることがあるんじゃないでしょうか。特にICTへの教員の親和性は急務といいますか、評価が高くなるところです。プロジェクターやタブレットを前提とした授業を構成できるなら、そっちを選択したほうがいいです。
黒板を使うにしても、平面的な板書よりも、立体的な板書が喜ばれます。これって案外簡単で、黒板の真ん中に、地面と平行に線を引いて、国語での二項対立を扱ったり、歴史なら上に年号、下に出来事、なんてのはすぐ思いつくところです。文字だけの板書は避けたほうが高評価、と言い換えてもいいです。マインドマップとか、Y字型の板書だとか、そこらへんは習得しとくともっと楽ですね。
さらに言えば、板書では配色に気を配る、配っているように見せるのも大事です。具体的にはすこし難しいですが、配色に整然としたルールが垣間見える、もしくは説明があるといいです。観客は必然性を好みます。一挙手一投足に必然性を求めます。ですから、だいたい口頭試問なんかで、授業について質問されると思うので、むしろこちらから「質問ポイント」を作り出すというか、あえて理由を伏せておくのも、口頭試問まで視野に入れると一つの方法だと思います。

5)めあては示せ
 「なんのために授業をするのか」「生徒は何を得るのか」を述べる、もしくは板書するのは重要です。忘れがちなのですが、これをやっとくのは小手先かもしれませんが、基本の一つです。

6)入試制度
 教科の専門性は深く問われませんが、教育制度への知見は評価されるポイントです。中でも、共通試験、もしくは指導要領の改定に向けて、現在教育界がしっちゃかめっちゃかになっているのは、ご存知のとおりです。
そこで、実際に口に出すか、板書するかは置いといて、例えば国語なら複数テキストの処理、英語ならライティングなど、なにかしら共通テストを意識した要素を入れ込んでおくと、評価は高くなります。

「こなれ感」 ”私はベテラン教員です”

1)タイムスキップ
 与えられた時間は10分ですが、実際の10分にこだわる必要はありません。むしろ、20分でも30分でも、より長い授業を見せましょう。そこで要になるのが、「タイムスキップ」です。「じゃあ10分、時間を上げるから、この問に挑戦してみて」「さあ、どうだい、空白はないかな」、これで10分あなたは節約しました。「じゃ、まずは○○くんから、本文読んでみて。適当なところで次の人を指名するから。」「はい、じゃあ、ありがとう。全文読み終えて早速なんだけどさ」、なんて展開にも使える。模擬授業においては、実際の授業ではできないことでもできるんだから、なにも遠慮することはありません。

2)過去の授業に触れる
 「前回は〇〇までやったね」なんて始まりはよくあることですが、例えば教科書を熟知しているなら、「2学期の最初に、○○やったね。そこで□□にも触れたの覚えてる?」なんて、年間指導計画を念頭に置いた授業の片鱗を垣間見せれば、まさに「こなれ感」の演出に成功したと言っていいでしょう。

3)くせは隠せ
 これを一般化するのは難しいのですが、目に見えるクセは隠したほうがいいことが多いです。フィラーは実はそこまで目立たないのですが、じっと立っていられない人っていうのは結構いるんですよね。いや、歩き回ったり、身振り手振りを加えるのはいいのですが、なんか妙に体や頭が揺れてるとか、めちゃくちゃキョロキョロしてるとか、すぐに顔や頭を触ってるとか、特に良くないのは、無意識に股間を触っているだとか。これに関しては、事前にスマホで動画撮影して、分析してみるといいかもしれません。

まとめ

いかがでしょうか。私が述べたことは、まったくもって表面的なことばかりです。なんら本質的なことには触れていません。だって模擬授業には必要がありませんから。ここに示したことは、だいたいはったりです。僕はほとんど「どう指導するか」というような、内容面には触れていません。ぶっちゃけ、思いついた授業で十分です。そこに如何に加点要素を付け加えるか、が重要なのです。

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