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ROAD TO THE TOP感想と2000年問題

 ウマ娘RTTT、良かったですね。1999年クラシック戦線のみに焦点を絞って全4話web配信という独自スタイルで全力を傾注してくる感じがほんとうに良かった。現実の皐月賞当日から始まって毎週日曜日更新というのも巧みだったね。

 個人的にはオペラオーのことが好きなので、終始オペラオーの器の大きさが描かれていたのが嬉しかった。どうしてもクラシックを軸に話が進むと、オペラオーはトップロードにとっての超えるべき壁という扱いになってしまいそうだけど、それだけではなくて常に同期に目を配って尻を叩いて(物理)激励するという覇王の振る舞いをしてくれた。あと、かなり気が回って頭が良いというオペラオーの性格を描写しつつも、内面や心情までは踏み込まずに得体のしれなさを残してくれたのが良かった。オペラオーをただの道化にしてはいけないけど、同時にオペラオーにはわけのわからない存在でいてほしいから……
 また、アドマイヤベガの話と正面から向き合っているのもすごかった。宿命を抱えて走り続けてきたアヤベさんが、ダービーを経てトプロやオペラオーと走り続けたいと願ってしまったことによって、もはや妹とともに走ることはできなくなってしまう。それは悲劇でもあるが、この物語の中では次に待つ新たなレースの幕開けでもあって、そこに救いはある。「いつまでも、いつまでも、この時間を一緒に走っていたかった。」なんだよな……。
 OP曲「Glorious Moment!」の歌詞にある通り、プライドとドリームとエールを背負ってウマ娘たちはターフに立つわけで、1999年の三強もそれぞれこの三つの要素を抱いて戦っているんだなということがかなり丁寧に描写されていた。特に3話でナリタトップロードが「期待に応えられないことの恐怖」を告白する場面は、まさにエールを受けて走っているからこそだし、優等生キャラのトプロが誰よりそれを意識するのもわかる。
 トップロードにとっての菊花賞が期待の重圧を押しのけて獲った勝利だったからこそ、史実実況に基づく「嬉しい!嬉しい!トレーナーも喜んでいる!」という言葉に文脈が重なっている。
 総じて三者三様の勝負をそれぞれの背負っているものまで含めて描ききっているのが素晴らしくて、だからこそレースの帰結を視聴者が知っていたとしても、単なる答え合わせ以上の感動を生み出すことができたのではないだろうか。

 ウマ娘という作品が史実ベースの話を扱ううえで重要な要素は「再解釈」と「改変」だと思う。今回であれば、4話でオペラオーの発する熱意がトプロに、そしてアヤベさんに伝播していくのが史実の「再解釈」だし、アヤベさんの物語が菊花賞で終わらず次の勝負を予感させる描写になっているのが「改変」だろう。ただ、今回はレースシーンの割合が大きかったこともあってそうしたオリジナル要素は抑制的で、ほぼ史実をなぞっている感じだった気もする。
 お話としての遊びの部分もほとんどなくて、3話でまったくレースが出てこない以外はレースとその直前・直後の話をずっとやっているのも思い切っているなと思う。ライブも最後だけだったし。
 そのため、作風もかなりシリアス調だったが、これは「もっとソフトな話はアプリとかでやっていく」という意思表明なのかもしれない。実際、ウマ娘というコンテンツがかなり横展開して複数の入り口を備えたことによって、アニメでしかできないことを突き詰めたらこうなったということなのかと思うとわりと腑に落ちる(逆にシリアスも萌えも全部アニメでやらなくてはいけなかった1期のころは大変だったはず)。

 しかしここまで良いものを見せられてしまうと、どうしてもかれらのその後……特にオペラオー最強時代から2001年宝塚記念までを見たくなってしまう。オペドトは史実が最大手だけど、RTTTでもドトウとオペラオーの関係はかなりはっきりと描かれていたし、つい先日は「ゼッタイトナリ…!」というかなり重めにメイショウドトウの感情を吐露した曲まで供給されてしまったし、どうしてもアニメで見たい。
 ただゲーム以外では2000年以降の史実ってほとんど描かれていない(漫画で少しあるくらい?)なので、今後そういう機会があるかどうかは2000年問題という感じですね。
 それまでは2000年有馬記念と2001年宝塚記念を交互に見て耐えようと思う。


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