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ヤマノススメ Next Summit感想──丁寧な心情描写は何物にも代えがたい

 心に沁み渡るような素晴らしいアニメだった。これまでの3期分のアニメも素晴らしかったけど、雪村あおいが自分にとっての山登りの答えを見つける今回の第4シーズンは特別の意味があったし、そんなストーリーの重大さにしっかり答えてくれるアニメーションだった。
 ヤマノススメのアニメはここまで春夏秋を各1期ずつ使って描き、4期は冬に当たる。尺も各期ごとに変化してきて、今回ははじめて30分枠での放送だった。とはいえ最初4話は総集編、最後2話は季節を少しだけ飛ばして富士山再挑戦編なので、実際に冬の物語をやっているのは6話分。しかも各話はAB各パートの2本立ての構成になっているので、冬の物語に限って言えば、15分枠×13話だった3期に近い構成といえる。

『ヤマノススメNS』はとてもリッチなアニメだ。総集編パートは単なる振り返りに留まらず、丁寧な再構成と新規パートが組み合わさっている。毎話変化するEDも素晴らしくて、EDだけで原作1話分くらいの情報量が詰まっている。富士山編は物語の時間軸を一気に夏まで飛ばしているが、それによって視聴者を振り落とすことなく、ちゃんと冬の物語から一貫して登場人物たちの感情を追えるように演出されている。総じて情報量が凄まじい作品だが、きわめて丁寧な描写によってしっかりと話をまとめてくれるのがほんとうに素晴らしい。
 特に丁寧だと思うのは、心情描写だ。ヤマノススメの中心はあおいとひなたの関係だが、4期ではさらに、ここな&ほのか、3年生組(楓・ゆうか・小春)、バ先のひかりさん、クラスメイトのみお・ゆり・かすみ、などなど周囲を取り巻く人物模様へと視点を広げていく。登場人物はどんどん増えて、必ずしも物語は登山の話題に留まらないわけだが、短いエピソードを通じて各々のパーソナリティを見せていく手法が確立されていてブレがない。特に”ここほの”(ほのここ)の波動が凄すぎて圧倒された。3期であおいとひなたのモヤモヤを乗り越えたからこそ、新たな関係の芽生えが映える。
 とはいえ、やはりヤマノススメの中心はあおいとひなただ。終業式のエピソード(7話)では、ひなたが背中を押すかたちであおいの成長が描かれる。友達が増えてきたあおいだけど、クラス全体を相手にするとやっぱり気後れしてしまう。でもそこを一歩乗り越えていくのがほんとうに良い。(それにしても今期はぼざろといい、これといい、ぼっちの記憶を喚起する話が多くてちょっとだけ……ちょっとだけ、つらかった)。
 さらに、12話の富士山では、あおいだけでなくひなたの成長も描かれる。ひなたにとっても富士山は”再挑戦”だったのだなあ……とわかる場面があって、そこがとにかく良かった。このふたりについては細かい描写がいちいち良くて、挙げ始めたらきりがない。6話のひかりさんとのデート前後の電話とかさ……。

 製作に関しては、これまで以上に分業が進んで作画担当者の色もかなり出ていたが、軒並みクオリティが高く、かつ一貫して描写に対して丁寧であるという姿勢があったのでまったく不満がない。むしろ各話ごとに作り手の腕の見せどころもあって、見て楽しい画面だった。EDのことは上述の通りだけど、OPも非常に良くて、特に山に向かう面々をそれぞれ見送るところは大天才だと思ったね。たしかに視聴者はそういう視点で見てるわけだから。
 あおいの話としては区切りがついているけど、まだまだ原作のストックもあるし、続きもぜったいに見たいので、5期に期待したい。

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