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ブルアカ『エデン条約編』4章感想──聖園ミカのためのキリエ

 エデン条約編全体のネタバレを含みます。

 約束された勝利の章だった。
 ストーリーは盤石かつコンパクトで、しかも評判の良かった3章の勢いを引き継ぎつつも、ときおり世界観に対して新たなアプローチを見せるのが良い。事前の期待もかなり高かったはずだけど、ちゃんと応えてくれている。
 エデン条約編が秀逸なのは、補習授業部→トリニティの内部抗争→トリニティ対ゲヘナ対アリウス→対ベアトリーチェ、というふうになめらかに話をスライドさせながらスケールを大きくしていっているところ。しかも、振り返ってみると補習授業部が結成された原因にも根本的にはベアトリーチェやミカの計画があったわけで、すべてが有機的に接続しているのがえらい。ずっと筋が通った話をしている。水着がどうとか下着がどうとか議論していたシナリオが、最後には世界の存否の問題に繋がるのが、ほんとうに【ブルーアーカイブ】という感じ。

 補習授業部の話としては3章で完全に蹴りがついているんだけど、そこにあえてミカとアリウススクワッドを主題にした4章を入れてくるのも着眼点がキレてるな〜〜。3章では戦争の話をして、4章で敗者であるアリウスや、怨みに支配されたミカを掘り下げる。4章は「戦後の遺恨」に正面から向き合っていて、現実にも通じるような普遍性のある話をさりげなくやっている。ここまで丁寧にシナリオと向き合っている作品なんてそうそうない。
 ブルアカの主題はあくまで青春なんだけど、その裏で常に「国対国」「社会対個人」みたいなかなり真面目な視点が盛り込まれている。こんなに教育に良いゲームないだろ。道徳の時間にやったほうが良いよ。

 個人的なハイライトはミカの内心が語られるあれこれのところ。ミカはかなり病んでいるし、個としての戦闘能力が高すぎるので被害がすさまじいことになっているけど、もっと早い段階で先生に出会えていたらもう少しマシになっていたであろうという意味で同情の余地はある。何よりまだ「子供」だし。それにしてもこのゲーム、何をやらかしてもだいたい「まだ子供だから……」という言い訳が成立するのが便利だな。
 そして、大人の役目は子供を叱って赦すことだ。ミカにとっては先生に叱られて赦される機会をもらうことが救いになっている。ここの「赦し」というのは言い換えると「主よ憐れみたまえ」であり、つまり「キリエ」だ。カトリックをモチーフとするトリニティはこのテーマを描くのにぴったりの舞台だ。
 さらにいうと、偶然のいたずらによってセイアを殺さずに済んだミカが、今度はみずからの意思でサオリへの攻撃を辞めるというのも絶妙な展開。この時点でミカはまだ赦される術を知らないんだけど、それでも自発的に怒りや怨みを殺す──この決断の描写がすごく良い。

 もちろんサオリの話も良かったけど、サオリは最初から覚悟が決まっているから話の展開もスムーズだった。ティーパーティーに比べるとアリウスの扱いは終始殺伐としていたので今後はアリウスの日常も見たい。

 ラスボスが案外弱かった感はあるけど、エデン条約編のテーマは相互不信による破局であって、ベアトリーチェは本人が力を振るうタイプというよりは生徒たちを敵対させて漁夫の利を狙う策士タイプっぽい(そして策に溺れる)のでこれも筋が通っているといえるのかな。
 逆に生徒側はミカにしてもサオリにしてもパワーファイターだったので、かれらが団結すればゲマトリアの勝ち目はないんだよな。


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