ホワイト・サマー・キャッスル

オレはいつの頃か、

ガキの夢の中だったかも知れない。

夢のいとこの姉弟との、

ひと夏の思い出を作っていた事を思い出した。

彼らの名前は忘れてしまったけど、

この物語では彼ら姉弟をこう名乗っておこう。

シディアとチャンクと。

オレは16年もの俗世間の人間達の強欲な剥奪と迫害行為に精神がすさみ、疲弊しきっていた。

見るもの全てを憎み、
奴らの笑顔や笑い声が耳と視覚にさわる。

そんな痛手を感じざるを得ないまで精神がすり切れ疲弊しきっていた。

オレ「…。」

いとこの姉「どうしたの?

そんなに怖い顔して。」

オレ「…ふっ。

戦争で兵士を慰問する為に、
ジャズシンガーが強ばった表情で、
身体を機械のようにキビキビと動かし、
クルクルと回りながら、
のれない歌を歌うのは、
なぜか知っているか?」

シディア「…。

難しい。

そんなの分からないわ。」

オレ「…それはな…。」

ドンドンドンドン…。

シディア「チャンクが帰って来たわ!!

もう!!

3人で会うのは何年ぶりかしら!!

テティー、お願いチャンクに会ってあげて!!」

オレ「…。

(チャンク…。)

(昔、この真っ白な砂浜でシディアとクソガキのチャンクと砂の城を作って遊んだ事があったな。

…しかし正直、会いたくはないな…。)」

???「帰ったよ〜。

テティーが帰って来てるって聞いて、
飛んで帰って来たよ。

すぐにそっちに行くよ。

渡したい物があるんだ。」

1階の入り口のドアがドタバタと開けられ、

地下で休んでいるオレ達に、
チャンクの話し声が聞こえて来た。

オレ「…。

(あ〜、会いたくない。

アイツは嫌いだ。

やかましい。)」

階段の方を見やると、
太った男の足が片方づつ見えだした。

ギコ、ギコ、ギッ…。

ギコ、ギコ、ギッ…。

チャンク「テティー。

やあ、久しぶり。

生意気ボウズのチャンク様だよ!」

オレ「嗚呼〜…。」

チャンク「…テティー。

今日キミに、僕とお姉ちゃんからプレゼントがある。

それはキミがとても長い間忘れていた大切な物なんだ。」

オレ「…(大切な物?
そんな物はこの世の中にありえるのか?)」

チャンク「良いから、この箱を受け取って。」

チャンクは安っぽいケーキを入れる様な箱をオレの机の前にドカッと置いた。

オレ「…。」

オレは白い安っぽい箱をしぶしぶ開けた。

中には、

あの、もう完全に忘れていた、
幼少期の晴れ渡った爽快な空を思いだす真っ白い砂のお城と、

砂浜に木の杖で書いたはずの砂の文字が、

「オレが負けるわけがねえ!!」

とボンドでとめてあった。

それと、

真っ白な紙粘土で作った3人の思い出の丸い団子。

団子には少し大きめの透明なプラスチックの装飾が下手くそに施されていた。

…。

それは凄く昔の、

オレが子供の頃に見た願望の夢。

大人なってはもう巡り会えない幼少期の単純明快で爽快な無垢な夢が、

安っぽい白い箱の中に詰まっていた。

オレはなぜか嗚咽まじりに泣き、

オレ「…あ…ありがとう。」

と言った。

オレは白い砂浜に立つ家を背に、
大事そうに本当の癒しの芸術品を右手に抱え、
泣きながら海岸の船乗り場へ向かおうとした。

チャンクが泣きながらオレの背中に吼えた。

チャンク「オレが負けるわけねえーーー!!!」

オレ「…。

オレが負けるわけねえーーー!!!

オレが負けるわけねえーーー!!!

オレが負けるわけ……ねえーーー!!!」

チャンク「テティー!!

海岸までは遠いだろ!!?

オレの仲間達が送ってやるよ!!!」

そう言うと、

振り返った白い家の後ろから真ん中に馬、
周りをバイクで走る奴らが現れた。

馬に載っている男「どうかこの馬に載ってください。

あとは他の男達がつきますので。」

オレ「お、オレは馬に載った事は…。」

馬に載っている男「大丈夫です。」

そう乗馬していた男がオレを促し、
馬に載せると毛並みの良い馬は徐々に歩き出し、バイクの護衛がついた。

海岸までこのペースで行ければ、
オレもひと安心だった。

しかし、馬は次第に歩くペースを早め走り出した。

オレ「お、おい!!

そこのお前、

どうやればこの馬は落ち着く!!?」

バイクの護衛「…。」

バイクの護衛はひたすら前を向いて走っていた。

オレ「…。

(マジかよっ。)」

ダカタッ、ダカタッ、ダカタッ…。

オレ「…う、わっ。」

…。

シーン。

…。

オレ「う、う…。」

そこでオレは目を覚まし、
夢の世界から現実世界に戻ってきた。

右手には白い箱の影も、
砂の粒1つも存在しなかった。

ただ、

オレ「オレが負けるわけねえ。」

とオレは1人で呟いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?