数字のインパクト
彼は小柄で細身だ。
身長は私とかわらない。
ヒールのある靴を履くと
彼は私より背が低くなる。
そんな事は気にしない。彼も気にしていない。
背の高さを重視する女子は多いが
私は背の高さに本当に興味がない。
以前お付き合いした人には
私より背が低い人もいたが、
なんの問題もなかった。
その人は自分の方が背が低いことを気にしていたけれど、そんなことどうでもよかった。
隣にいる人を見上げようと見下ろそうと
並んで歩ければ、それだけで楽しい。
私は細身の人が好きだ。
女性にはない男性特有の
脂肪の少ない骨っぽさにとても色気を感じる。
あと、痩せている人に多い
頬骨のエラの出っぱったラインがたまらない。 だから細身な彼は完全に私のタイプだ。
(そもそも私の一目惚れからこの恋愛は始まっている。馴れ初めについてはまた後日書く場を設けたい)
彼はモヤシっ子と呼ばれるほど
ひょろひょろでもない。
筋トレをしたりするし
体を動かすのも好きなので
ちゃんと筋肉があり
骨と筋肉と皮でできた彼の体は
余分な部分がなくとても美しい。
細マッチョよりも細い
ガリマッチョだ。
お付き合いを始めて少しした頃
私は何気なく彼に体重を聞いた。
ちゃんと答えてくれなかったが
私と同じぐらいである事はわかった。
細身の人が好きだが
彼より重たいのは自分の中で許せなかったので
決して太らないでおこうと決めた。
自分が細すぎることを気にしている彼は
過去に筋肉を育てようと
ネットで調べて筋トレをし
プロテインを飲んだりして
頑張ったことがあるらしいが、
彼の筋肉は硬くなるだけで大きくなってはくれなかったそうだ。
彼は別に少食でもない。
ご飯はだいたい大盛りにするか、
おかわりをする。
私が食べきれなかった分も食べてくれるし
お肉や油物、濃い味付けのものが好きだ。
そんな食生活を続けているにも関わらず
30歳を過ぎてもその体型を維持できているのは
完全に彼の体質の力である。
彼は夏になっても
決して半ズボンを履かない。
足首も細いし、スネ毛が濃いわけでもないので似合いそうだから履いたらいいのにと何度も勧めたが、頑なに断られた。
女子からしたら羨ましいほどの細い足だが
出すのは絶対に嫌らしい。
だから彼は海やプールにも行きたがらない。
コンプレックスは人それぞれだ。
先日彼が電話で
今日は職場の健康診断があり
ショックな事が2つあったと言ってきた。
ショックなこと1つめは
片目の視力が下がっていたこと。
「それは困ったね。目が疲れてるのかな。
眼科に行って、必要であれば眼鏡やコンタクトの度数を調整してもらおうね。」
と慰めた。
そしてもう1つは痩せていたこと。
「え?」
となる。
骨と筋肉と皮しかない彼に
ご飯もいっぱい食べる彼に
痩せる余地なんてないと思っていた。
職場の作業服を着て
ポケットに携帯やペンやちょっとした工具などを入れた状態で測ったにも関わらず、彼の体重は以前より軽くなっていたらしい。
「その日は寝坊して朝ごはんを食べて行かなかったから」と彼は言ったが、
携帯や作業服や工具の重さは
一食分の朝ごはんではどうにもならない。
彼は痩せてしまった。
気になったので体重を聞いてみた。
痩せてしまった彼の体重は私より軽かった。
話しが違う。
彼より重たくならないように
体型維持を続けていたのに
そっちが軽くなるのはルール違反だ。
そして聞いた彼の体重に驚いた。
女子の
しかも細めの女子の体重だった。
この数字のインパクトがスゴくて
私はかなり衝撃を受けた。
一人じゃ受けとめきれなくて
彼に内緒で翌日友人に話してしまったが
友人もとても驚いていた。
例えば同じ細身の男の人でも
185センチで60キロなら問題ない。
絶対に細身だが、
細いなで終わる。
ただ、私と背丈が変わらない彼の体重は
女子の体重の数字だ。
数字が身近だ。
185センチの細身の人と
例えBMIの数字が同じであろうと
なんか違う。
本当に数字のインパクトが強い。
その日から私は痩せる努力を始めた。
努力といっても間食を減らすぐらいだが
女子として彼よりは軽くならないとと思った。
そして彼はその日から太る努力を始めた。
なんだか羨ましく
嫌味な努力のようにも感じるが
痩せていることは
彼にとってコンプレックスなので
痩せたい私と太りたい彼の悩みは似ている。
1日3食では足りない
それでは痩せてしまう。太れない。
と思った彼は
昼食と夕食の間におにぎりやパンといった
炭水化物を摂取するよう努めた。
1日4食作戦だ。
また、いつも腹8分目にしている食事を
お腹いっぱいまで食べるようにした。
そして電話で今日はこんなに食べたよと
報告してくれた。
「いっぱい食べたね」と私は褒めた。
そうした努力が実り
彼は3週間ほどで痩せる前の体重に戻れた。
それでも十分痩せているが
元に戻ってくれたので
私もダイエットをしないでよくなった。
(そもそも彼は私に自分より軽くなれなんて一度も言っていない。私の勝手なプライドだ)
コンプレックスは人それぞれである。
追記
彼は欲しがっていたネットを購入し
夜な夜な蚊に刺されながら
ピッチング練習に励んでいる。
格好いいフォームになるため
隙あらばYouTubeでピッチングフォームの研究をしている。
最近暑くなってきたから
代謝がいい彼はたくさん汗をかくし
また痩せてしまわないか心配だ。
https://note.mu/tetuk0/n/n25e781372a15