見出し画像

君に贈る火星の

僕の恋人は白血病で火星移住できない。
地球という星に残された寿命はあと僅か。
徐々に移住は進んでいるが、技術が追い付かず病人は残していくことになっていた。

「私も一緒に行きたかったなぁ。火星の空気ってどんな味なんだろうね」
今年何度目かの入院をしている彼女は、空を眺めている。
「あなたは明日発つのよね」
「また、すぐに会えるさ」
僕たちは、これが永遠の別れだとわかっていた。
政府はすでに火星整備に力を注ぐ方向になっていて、病人のことなんて眼中にない。
翌日、僕は予定通りに火星へ向かった。

「あれから3年も経っているなんて、信じられないな」
「私は10年待った気分よ?」
「待たせてごめんね」
「ううん、本当は私がそっちに行くはずだったのに…ごめん」
あと数日で地球が消滅すると聞いて、僕は帰ってきた。
相変わらず入院する彼女と過ごすために。
「これ…」
僕はビニール袋を取り出す。中には金の輪がふたつ。
「何これ」
「君に贈る、火星の空気…と結婚指輪」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?