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立花友紀さんには5歳になる息子さんがいる。 ひとり遊びをする年頃。 息子さんが架空の友人と遊ぶようになった。 母親に相談すると、友紀さんもそうだったと言われたそうだ。「もし、おかっぱ頭の男の子と遊んでいるようなら『あれはあなたの兄弟よ』と教えてやりなさい。それが最善策だから」 そのように言われた。 何が最善なのか。 理由を聞こうとしたが、息子が泣き始めために聞けずじまいだった。 息子の普段の様子を見るに、毎回同じパターンで架空の友人と遊んでいる。 まず部屋の隅を見て笑い、大
始発が始まる時間。 新宿東口の広場付近では、家に帰れない事情のある男性が女性に声をかけることがある。 彼らの大体は夜職を生業としている人間だった。 アカネさんは帰宅するところだった。 声は枯れ、体が鉛のように重かった。 地下への階段を足早に降りた。 「すみません」 金髪の青年が現れた。 彼は人懐っこい笑みを浮かべて、擦り寄ってきた。 アカネさん好みの容姿であった。 「家に泊めてもらえませんか」 「営業ならお断りだけど」 「いえ、本当に泊めてもらうだけで大丈夫なんで。お金
新宿区のはずれに小さい公園がある。 トイレとゴミ箱、それに地域の備品を置く物置があるだけ。 大学や専門学校が近いこともあり、そこで酒盛りをする学生がいた。 新田さんの先輩である斎藤さんもその1人だったそうだ。 夏の盛り。学校は夏休み中だった。 偶然、街で斎藤さんに会った。 久しぶりに見る彼は、見てわかるほど痩せていた。 「なぁ新田。あの公園、出るんだよ」 「何がですか」 「オバケ」 斎藤さんの真剣な表情に、新田さんは怯んだ。 少しせり出た眼球がこちらを睨む。 「だから、近寄
嘘袋、というものがあったと陽香さんは話す。 30年ほど前、中学生の陽香さんのまわりで小袋を持ち歩くのが流行った。 3センチ四方の手作りの巾着で、中には綿とかおり玉を入れたものだった。 気持ちが荒ぶる時に、袋に向けて話す。 ストレスの捌け口に使うのだ。 「家も学校も嫌だ」 「あいつが消えればいいのに」 「死ね」 陽香さんはよく、このように話しかけていた。 苛立ちを嘘袋とともにきつく握り込んで、様々なことを我慢した。 なぜか怒っている時はまるで匂いを感じないのだが、言葉をぶ
昔、とある小学校の2階女子便所から男子生徒が飛び降りるという事件があった。 校庭に植わっていた柿の木がクッションになったということもあり、男子生徒に大きい怪我はなかったそうだ。 当初はいじめかと騒がれ、捜査された。 が、はっきりとした原因は未だにわからぬまま。 落下防止の対策を、と教育委員からお触れが出ただけで終わった。 原因不明のまま静かに幕を降ろされた、そんな出来事だった。 マリエさんという女の子がいた。 フィリピンのハーフで、たまに幽霊がいると怖がるような子供だった。
酒谷さんは不動産会社に勤めている。 彼は営業部に所属しており、この部署には『0番』と呼ばれる仕事がある。 隠語にされているのは、瑕疵物件の確認作業だからだった。 当時、勤続3年目の酒谷さんに、この0番が発生した。 初めての0番。部長に告げられた時は心底焦ったそうだ。 「どんな物件なんですか」 「そう焦るな。お前に行ってもらうのは心理的瑕疵ってやつだから」 「幽霊ですか! 出るんですか!」 「いや、いないよ。そんなもん。だからさ、雰囲気とか細かいとこの確認してきてってこと」
嗣治さんはとある寺の一人息子だ。 友人を招く際は寺の敷地でよく遊んでいたそうだ。 それは小学4年生の秋。 淳さんという友人が家にやってきた。 この淳という子供は、数年ほど前は乱暴者で有名だった。 しかし、この頃には妙に大人しくなっていたそうだ。 控えめな性格の嗣治さんと相性がよく、この日は家に招いた次第だった。 「俺、寺の中は怖いから入りたくないな」 「じゃあ家との間に中庭があるから、そこで遊ぼうよ」 居住区と寺を繋ぐ中庭。 そこには様々な植物が生えていて、小さな池と庭石