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記憶の紙魚

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雨森が集めた怪談。 こっそり怪談イベントの感想も。 ※朗読や語り利用されたい方はご連絡ください。 内容の肉付け含め相談OK。勉強中のため無償です。
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2021年10月の記事一覧

姉は羽化する

仁美さんには双子の朱美さんという姉がいた。 お姉さんは重度の障がいをおって産まれ、ずっと部屋で寝ているだけだったという。 その姉の喪があけたので、と話を聞かせてくれた。 元気に走り回る仁美さんと比べ、車椅子でも動くのが辛い朱美さん。 言葉も不自由であったが、姉妹の絆なのか、不思議と二人は意思疎通に困らなかった。 姉が何を言って、何をしてほしいのか。それが仁美さんにはわかったらしい。 窓から蝶が見えれば『蝶をゆっくり見てみたい』という姉の気持ちが頭に浮かび、外で蝶を捕まえて

夢抱く腹

郁乃さんは三十代だが、ご両親はすでに他界している。 両親共に高齢での妊娠出産だった為というが、それでも幾分か早逝にように思えた。 そんな彼女がこんな話を教えてくれた。 当時、ご両親は四十代半ばあたり。 長年、子供を望んでいたそうだ。 しかし、景気も悪い時期で、今から子供が産まれても経済的に余裕がない。 もう無理か…と諦めかけていたところで妊娠が発覚した。 なんと二つの命が胎内で育ち始めていたのだ。 ようやく授かった我が子。余裕はなくとも大切に育てると決めた。 性別がわかる頃