マガジンのカバー画像

記憶の紙魚

69
雨森が集めた怪談。 こっそり怪談イベントの感想も。 ※朗読や語り利用されたい方はご連絡ください。 内容の肉付け含め相談OK。勉強中のため無償です。
運営しているクリエイター

2021年8月の記事一覧

少女食らう神

美里さんの記憶にしか存在しない女の子がいるという。 小学五年生だった美里さんには、綾子さんという同級生がいた。 気が強く、浮き気味で、美里さんとは挨拶を交わす程度。それ以上でもそれ以下でもなかった。 当時、女子の間で「一緒にトイレに行こう」が流行った。言葉の通り、一緒にトイレに行き、そこで秘密や好きな人を打ち明けるのだ。 夏休み間近のある日、美里さんは綾子さんからトイレに誘われた。 灰色のタイルが並ぶトイレの床。隙間のセメントに滲む水を上履きの先でなぞりつつ、話が始まるの

悪鬼の匂い

その家は、古くからその土地で繁栄していた藤森という姓であった。 その辺りは同じ姓の家ばかりあったが、景子さんが嫁いだのは所謂本家筋の一端を担うような、大きい屋敷であった。 ある初夏の日。 同じ屋敷に住まう大叔父が亡くなった。 栗の花が強く香り、胸焼けするような夜だったという。 義父に呼ばれ、大叔父の遺体を置いてある仏間に行くと異様な空間になっていた。 元より天井まで届くかという大きな仏壇。 その前に大叔父が横たわり、胸には小刀が2本。 そして、屋敷に住まう親族総出で猫を囲