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微笑まない国、タイ

「タイで撮影があるよ」と話が来たのは確か昨年夏の終わりだったか、秋の始まりだったか。

オーディションに無事合格し、いま私はタイ・バンコクにいる。初の海外ロケだ。そりゃテンションも上がる。6時間のフライトも苦ではなかった。直前に空港でダウンロードした「カメラを止めるな」と「ミッションインポッシブル2(M-I-Ⅱ)」を観た。M-I-Ⅱは冒頭、飛行機が墜落するシーンから始まるので少し憂鬱になったが。

ところで私は「あなたは旅を全力で楽しむ人だ」と同行者に飽きられながらよく言われる。行きたいところは必ず行こうとするからだ。寝てる暇はないのだ。だが今回は仕事。団体行動のためそうもいかないので、皆んなに従って行動し、ご飯を食べ、ビールを飲み、セブンイレブンで買い物をして相部屋のホテルに戻った。

時間は現地時間で21時過ぎ。酔いもあって早々に眠りについたが、深夜2時に目が覚めてしまう。こうなったら仕方ない。こっそり夜のバンコクを散歩する事にした。

24時間営業、しかも観光客向けではなく地元民に絶大な指示を受ける飲食店が車で15分で行ける距離にあるらしいのでタクシーを探すと一台寄ってきた。タイのタクシーは、助手席のドアを自分で開けて告げ、OKなら乗せてくれるらしい。
「I want to go here、ジェーファン(店名)、カオマンガイ(看板メニュー名)」なんてカタコトで運ちゃんに告げると、無表情のままジッと見られる。もう一度、iPhoneの地図を見せて告げる。またジッと見られる。うん、どうやらOKらしい。
乗り込むと、「カオマンガイ〜」とご機嫌に歌う。しかし顔は笑っていない。しかも行先は反対方向だ。大丈夫か?

「カオマンガイ!」と言って車が停まった。見ると徒歩15分ほどで行ける、これまた24時間営業の有名店だ。ここは明日行こうと思ってたんだが…。まぁいいか。運ちゃんはもう一度「カオマンガイ!」と言った。その前後になんか言っていたが、「美味しい」「自分も好きだ」的なニュアンスだろう、きっと。初めて見た笑顔はとても誇らしげだった。

店に着いた。店員らしき人は大勢いるが無反応。しばらくしてスタッフがまたもや無表情で「座れ」的なジェスチャーをする。メニューを持ってきた女性も同じく表情はない。タイって「微笑みの国」と言われてなかったか?と考えつつ、不思議と不愉快で無い自分にも気がついた。これが日本なら「愛想ないスタッフだな!」となるかもしれない。
注文してしばらく待つとそれが運ばれてきた。

これで50バーツ(約150円)。
右がパリッと揚げたフライドチキン、左が蒸した鶏肉。これに甘辛いチリソースや、香辛料の効いた辛口のタレをかける。

美味い!という顔を向けると、スタッフも「そうだろう!」というような、とびきりの笑顔で返してくれた。

そうか、この国には愛想笑いという表向きの笑顔を作る人はいないのか、と思う。さっきまで皆んなといた自分を思い出す。
微笑み=愛想笑い=相手に合わせるための意思表示、という文化に生きている自分にとって、微笑みも、愛想笑いも、笑顔も同じカテゴリーだった。タイには10種類の笑顔があるらしい。
演技に活かしたい。ついそんな事を考えた。
#タイ #バンコク #海外  

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