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ばあちゃんwithコロナ

 89歳になる母がコロナに罹ってしまった。食いしん坊の我が家系に君臨する人だ、基礎疾患は一通り取り揃えてある。僕は伝染るの半分覚悟で看病したのだが、母は黙っておくこともじっとしておくことも苦手で、咳をしながら起きていろいろ指図したり、世話を焼いたりしようとする。
「俺もできれば伝染りたくないんだ。頼むから大人しくベッドで寝ててくれ」
と頼むが、5分と続かない。
 深夜になり、やっと大人しくなるとかえって心配になる。熱が38度あったので、保健所の窓口と相談して救急車を呼ぶことにした。話を盛り気味言い、熱も5分ほど高く話してきてもらったのだが、実際来て測ってみると人の気も知らないで37度台半ばに下がっている。救急車の人は家に帰される可能性もあると僕に断りを入れた上で取り敢えず病院に搬送となった。僕は出戻りの場合に備えて自家用車でついていった。設置されたシェルターで測った酸素飽和度が92というのでめでたく出直してこいとはならなくて済んだ。中等症ということになるらしい。説明した救急医はそこそこ苦しいはずなんだがと首を傾げ気味に言う。その段階では、延命処置のリスク説明と意思確認まであった。
 翌朝、担当医から肺炎の所見は無いので急激な悪化は無いだろうとの説明があり、胸をなでおろした。その日はそれ以上の連絡はなく、二日目の今日またぞろやきもきし始めた午後になって、母からの伝言を伝えるという電話が担当看護師からかかってきた。曰く、
「病院の飯は不味くて食えない。ふりかけと海苔の佃煮を届けよ。また、直接司令を出せるように、携帯電話も届けよ」

 僕はこの人より長く生きる自信が正直無い。

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