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高度治療室(HCU)にて

 数ヶ月ぶりに市民病院の高度治療室(HCU)に入っている。すでに顔見知りになっているスタッフが気を利かせ、ただ一つだけある個室スペースに入れてくれた。前回入った場所だ。その時は、心肺停止で担ぎ込まれるという状況だったので、胸を張り、大いばりで入ったわけであるが、今回は、全身麻酔とは言え、メスを使わず肉体的負担もほとんど感じないようなカテーテル手術の後の「念のため」で入ったので、内心「恐れ入ります。」といった感じではある。
 しぶとく生き残って退院した後の通院検査で、心房細動という不整脈が見つかり、主治医の勧めもあって踏み切った。カテーテルアブレーションというやつで、左心房の4か所に火傷をさせて変な信号を出してるところを殺してしまうと言うことらしい。心房細動は脳梗塞のリスクがあるということで、薬で抑えられてはいるのだが、僕の心臓は、前回30発以上の電気ショックを食らっても動き出さなかった寝坊助なので、やっておいた方がいいだろうとの判断だ。それに処方されている薬は余りありがたくない副作用のリスクがあった。
 点滴をとうの昔に装着し手術着に着替えてから初めて詳しい話を聞いた。「これで薬飲まんでよくなるのか?」と訪ねたら一回の治療で治るのは6割とのこと「はよいわんかい!」と言いたいところだけどまあいいか。助かる見込み10%以下と言われながら死ななかった僕にしてみれば、6割というのは、10割に等しい。
 治らない4割の原因のほとんどは、火傷のほうが治ってしまったためという説明だった。変な話だが、元の木阿弥というやつだ。
 手術が終わり麻酔から覚めるとかみさんがいた。思いの外ケロリとしている僕に彼女も安心した様子で、それは僕にしても同じだった。前回、18日ぶりにこの世に戻って最初に見たのは、天井のスプリンクラーだった、その時はそれが帽子をかぶった人の顔のように見え、しかも人のよさそうなたれた目の中に、目玉が現れ、僕をぎょろりとにらみつけたりしたのだけど、今回はおとなしくスプリンクラーをしていた。
 そうなると気になってくるのが治らない4割になってしまわないかということ。何しろ僕の治癒能力の高さは、他でもないこの場所で証明済みのことなのだ。そのことにかみさんと二人してほぼ同時に思い至った。僕は思わず言った。
「『ウェルダンにしてくれ』と頼むの忘れてた!」

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