企業が知るべき土壌汚染のリスクのお話
土壌汚染とは
土壌汚染・・それは読んで字の如し。土壌が汚れている状態のこと。
具体的には、土壌が化学薬品等で汚染された状態のことを言い、化学薬品で汚染された土壌は、貴重な水資源である地下水を汚染し、植物を腐らせ、人に健康被害をもたらします。
大気や河川水、海水等の汚染とも同等に扱われる重大な汚染ですが、その汚染への対応の難しさは大気や水質汚染のそれとは比べものになりません。
例えば、大気や河川水、海水の汚染ならば、国や地方自治体が汚染のもとをたどることで、その排出元である工場や研究所等を持つ企業に対して是正措置を命じ、改善を図ることができます。汚染もとをたどることは決して難しくはないでしょう。
ところが土壌汚染の場合、一旦汚染されてしまうと汚染源である化学物質は、地中の奥深くに潜り込んでしまうため、その位置や挙動を把握し土壌中の化学物質を除去することは、優秀な地質学専門家の技術をもってしても極めて困難、いや、不可能とすら言えるかもしれません。
それゆえ汚染された土壌を浄化するには、考えられる限り広範囲にわたる土壌の除去をしなくてはならず、それには莫大な費用がかかります。
当然その莫大な費用は、汚染された土壌を持つ土地の所有者もしくは権利者に重くのしかかってくることになります。汚染の程度次第では、その土地の市場価値と同価格、もしくはそれ以上の土地浄化費用が発生することすらあるのです。実質、土地の価値はゼロ、いや、場合によってはマイナスの価値にすらなってしまうのです。
仮にそんな土壌汚染のリスクを回避する手段があるとするならば・・・まずは土壌汚染について最低限の知識を手に入れることがリスク回避の絶対条件です。
ここでは、土地を取り扱うことのある企業が最低限手に入れておくべき土壌汚染の基本の知識についてお話します。
ここで提供した土壌汚染の基本知識が土壌汚染リスク回避になるか否かはあなた次第です。ただ、ここでお話する知識がなければ、リスク回避は100%不可能でしょう。
土壌汚染の特徴とは?
環境基本法という法律があります。
日本にはいろんな種類の環境問題がありますが、その中でも人の健康や命を脅かす重大な環境問題を、環境基本法の中で「典型7公害」として7つ定めています。
その7つとは、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、振動、騒音、地盤沈下、悪臭。そうです!実は土壌汚染もこの典型7公害のうちの1つなのです。
この典型7公害、それぞれ特徴があり、人に与える影響も異なってきます。
当然ですよね!?大気汚染と騒音を同列に捉えることはできませんし、それぞれの公害に対する対策も変わってきます。
ただ、これらの公害、文字を見ればどんな公害なのか、人の生活にどんな影響を及ぼすのか、だいたいの検討はつきますよね!?
大気汚染や水質汚濁は空気と水の汚れ、言うまでもなく人の生活への影響は甚大です。
振動、騒音、地盤沈下、悪臭も読んで字のごとく、わかりやすいと思います。それぞれ「揺れる」「やかましい」「沈む」「臭い」と言う動詞や形容詞でも容易に表現ができます。
ところが土壌汚染です。これって人の生活にどんな影響を及ぼすのか?果たしてどんな特徴を持つのか?
もちろん、土壌汚染も他の6公害と同様に独自の特徴があり、独自の対策を講じる必要があります。
ただ、他の6公害とは決定的に異なる点があるのです。それがこれです。
1、汚染状態が非常にわかりにくい。
2、汚染原因者が非常にわかりにくい場合がある。
1については、土壌汚染ならではの特徴です。土壌汚染は基本的に地面の下、つまりコンクリートやアスファルトの下で起こっている汚染です。通常はなかなかわかりません。
2については少々説明が必要です。例えば、ある企業(A社とします)が土地を購入したとします。立地条件が非常に魅力的な土地で、そこに自社ビルを建てて本社機能を移そうと計画しました。当然この時点でその土地を汚染させることなどありません。ただ、土地を購入しただけなのですから。
ところが後日、かつてその土地には工場が建っていて、非常に高濃度な土壌汚染の可能性があるということが判明したのです。かつての工場はすでになく責任者の所在もわかりません。
この場合、その土地の汚染の責任は、なんとA社になってしまうのです!A社は、ただ立地条件が魅力的な土地を購入しただけで土壌汚染の責任を負うことになってしまうのです。
もちろん、不動産業者に対して説明を求めたり、土地売買の契約破棄等の行動を起こすことができることもありますが、もしA社が自社ビルを建設してしまった後に土壌汚染が発覚していたとしたら、取り返しのつかないことになっていたでしょう。
結局、A社も不動産業者も直接の汚染原因者ではなく、汚染原因者であろうかつての工場も責任者の所在が不明・・・そもそも実際にその土地がどのように汚染されているのか、どの程度汚染されているのか否かも定かでない・・・
典型7公害に数えられるほどの重大な環境問題であるにも関わらず、汚染状態も汚染原因者も非常にわかりずらい・・・
特徴的であると同時にものすごく厄介であるとも言えるでしょう。
先ほどの例にもありましたが、水や空気ならば人の五感ですぐにわかります。
例えば水の汚れならば、まず視覚でわかります。水面に何かが浮いていたら油汚染の可能性がありますし、色が付いている場合もあります。
そして臭覚でもわかります。蛇口をひねって出てきた水からツーンとした刺激臭を感じたら、その水で手を洗おうとは思わないでしょう。
そして、その汚染原因者を特定することは決して困難なことではありません。汚染元を辿ればいいだけのことですから。
ところが土壌汚染は、基本的に土の下で起こっている汚染、まして人の住む地域のほとんどはコンクリートやアスファルトで覆われているため、地上ではわかりませんし、すでに地中に潜り込んでしまっている汚染の原因を辿ることなどほぼ不可能です。
そんな土壌汚染の特徴が、さらなる悲劇を生み出していると言うことを、あなたはご存知でしょうか?
コンクリートやアスファルトで覆われている下での土壌汚染は、いわば「臭いものに蓋をした状態」です。もちろん蓋をしたからといって汚染が消滅するはずもありません。
蓋をされた状態の土壌汚染は、人が気づかぬうちにさらなる汚染の力を徐々に蓄え、ある日、地中からの刺激臭や地下水の汚染と言う形で、発見されるのです。そうなってしまうと土の浄化は極めて困難、もはや手遅れの状態です。
また、土壌汚染が地下水にまで及んでしまうと、汚染は地下水の流れにしたがいどこまでも拡散されていきます。
知らず知らずのうちに、自宅の庭の汚染が隣近所の庭を汚染させてしまう・・・これが土壌汚染が持つ恐ろしい特徴の1つなのです。
これって・・・何かに似ていると思いませんか?
そう!癌です。日本人の死亡原因のナンバー1と言われるあの癌です。
早期発見すれば90%の確率で完治する場合もありますが、ステージ4まで癌が進行するともはや助からないと言います。
ステージ4とは、癌の転移により全身に癌ができてしまう状態のこと。初めはほんの1部位にしかなかった癌が、リンパの流れにしたがい他の部位にまで運ばれてしまうのです。そう!まるで土壌汚染が地下水の流れで拡散されてしまうかのように。
つまり、土壌汚染を別に言い換えるとこう表現できます。「大地の癌」と。
土壌汚染が起きる原因は?
先ほども少し触れましたが、土壌汚染が起こる原因は、人の経済活動で作り出した化学物質がなんらかの原因で地中へと漏洩することによるものです。
わかりやすい例で言うと、化学物質を取り扱う工場や排水施設からの漏洩、廃棄物の埋め立てなどです。とはいえ、化学物質を扱うのは工場ばかりとは限りません。
工場以外では、病院、学校、消防署、クリーニング店、化学物質を取り扱う研究所などなど。
あなたの住む街にもこれらの施設はあるはずです。特にクリーニング店はどの駅前にも1店はありますよね?
地面の下で起こる公害であるため、普段の生活で土壌汚染を意識することはまずないとは思いますが、実は典型7公害の中で最も身近なものであるかもしれません。
土壌汚染を調べる方法とは?
通常の事業活動で、土壌が汚染されているとわかることはほとんどありません。よほど高濃度の汚染ならば、土壌から異臭や刺激臭を感じたりすることもありますが、それでもそれが土壌汚染だと判明することは滅多にありません。
ごく稀に、地面にできた水たまりに浮かぶ油から汚染が発覚することはあります。ただ、厳密にいうと油汚染=土壌汚染ではありません。この場合も油汚染はきっかけにすぎないのです。
普段の生活でも土壌汚染を意識することはまずありません。土壌に触れる機会といえば、家庭菜園などが思い浮かびますが、家庭菜園をしなくとも野菜や果物はスーパーで手に入ります。また今時自宅の庭に井戸を掘って井戸水を生活用水にしている人などいないでしょう。当たり前ですが、生活で使う水は蛇口をひねればいくらでも使えます。
「じゃあ、どうやって土壌が汚染されているかどうかがわかるんだ?」
先ほども言ったように、土壌から刺激臭がしたり、水たまりに浮かぶ油から土壌汚染だとわかることもありますが、そんな例はほとんどありません。
土壌汚染はまるで蝉の幼虫のように、声を立てることなくジーッと地面の下に潜み、ひたすら栄養を蓄えて汚染拡散の時期を待っているのです。
「では、私たちは地面の下の汚染の成長を、指を加えて見ているしかないのか?」
そんな時のために土が汚染されているかどうかを調べる手段があるのです。「土壌汚染調査」と言います。
それは、土壌汚染があると考えられる箇所の土を採取し、その土を化学的に汚染物質の測定を行なうというものです。
調査は「土壌汚染対策法」という法律で定められた手法で行なうことが義務付けられており、法で定められた「土壌汚染調査技術管理者」という国家資格取得者しかすることができません。極めて専門的な知識と技術が必要になり、それに基づいた土壌汚染の有無や程度の判定をしなくてはならないためです。
癌の発見や治療は「医師」の資格を持った医者だけが行うことができるのと同じように、土壌汚染の調査もまた土壌汚染の専門家のみが行うことができるのです。
土壌汚染対策法によると、ある一定規模以上、もしくは法で定められた特殊な化学薬品の使用や保管等の使用履歴がある事業所が、売買などで土地を明け渡す場合、その土地について土壌汚染調査の実施が義務付けられています。
不動産業者は、売買対象の土地の土壌汚染調査結果を公表する義務を負っているため、先ほどの例にあったような土地の購入後に土壌汚染が発覚したなどという事態は防ぐことができるのです。
土壌汚染からの健康への影響は?
冒頭でもお話したように、土壌汚染とは、足の下の土壌が化学薬品等で汚れている状態のこと。
地中の中で何十年も眠り続けながら力を蓄えていく汚染であるため、汚染状態の把握や原因者の特定は極めて困難。
十分に力を蓄えた汚染は、ある非突然、地中を縦横無尽に走る地下水の流れに乗って、汚染を拡散させていきます。そうなるともはや手遅れ、汚染の根絶は不可能となってしまいます。優秀な地質学専門家の技術を持ってしても、です。
拡散された化学物質は周囲の土壌を汚染し、近隣住民の健康被害をもたらすことすらあり得るのです。
そして汚染原因とである土地の所有者は、自身が汚染原因者でないにもかかわらず、汚染の責任を負わなくてはなりません。
仮になんらかの形で自社が汚染された土壌を持つ土地とか変わってしまった場合、その影響は風評の面でも、健康面でも、金銭面でも甚大だと言わざるを得ないでしょう。
土壌汚染は、水や大気とは異なり、その汚染メカニズムが極めて難解、現在の地質学でそのメカニズムを解明することはできません。
そのため、土壌汚染というリスク回避のための唯一の手段が「土壌汚染対策法」「土壌汚染調査」を知ることなのです。
「法律は弱いもんの味方やない、知っとるもんの味方なんや!」「ミナミの帝王」萬田銀次郎の言葉ですが、土壌汚染にも当てはまると私は確信しています。
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