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しあわせバタ〜味。
「冷静になってよく考えるとヘンな物」、と言われて頭に思い浮かぶものはなんだろう。
おれの場合、それは『しあわせバタ〜』である。
知っている人の方が多いだろうが、一応説明すると『しあわせバタ〜』は、カルビーが販売しているポテトチップスのことだ。
2012年に期間限定で販売され、人気が出ていつの間にか定番ラインナップに入ったらしい。
最初は特に気にしていなかったのだが、おれはある時ふとこのネーミングが”ヘン”であることに気づいた。
ポテチの定番の味といえば、うす塩、のり塩、コンソメあたりだろう。
当たり前だがこれらはもちろんそのポテチの”味”のことを表している。
だが、『しあわせバタ〜』には味には全く関係ないであろう「しあわせ」という言葉が入っているのだ。
冷静になってよく考えるとだいぶヘンなネーミングだ。
「幸せ」とは味のことではなく、人の感情とか精神的な状態のことであるはずである。
なぜそれがポテチの味の名前になっているのだろうか。
一旦考えだすといくつも疑問が湧いてきた。
まず、その「幸せ」は何を原料に作られているのだろう?
もしかすると一袋の『しあわせバタ〜』を作るのに、何十人もの人が不幸せになっているのかもしれない。
そもそも「幸せ」は味がするのだろうか?
いや、「幸せ」自体には味はないが、それを食べると幸せになるということなのかもしれない。
もしそうならば、毎日でも食べた方が良い。
いや、でもそもそも幸せって何だろう。
元カノからいきなり「明日空いてる?」とラインが来たり、家の近くに100円ローソンが出来たり、ある日突然藤本タツキくらいおもしろいマンガが描けるようになることだろうか。
幸せというものは、考え出すとけっこう難しい。
実は『しあわせバタ〜』は過去に一度だけ食べたことがあったのだが、「たしかおいしかった気がするなー」くらいで記憶が曖昧だった。
まだそのネーミングに引っ掛かる前だったのでなんとなく買って、なんとなく食べたのだ。
そしてスナック菓子を日常的に食べる習慣がないおれは、その後リピートをすることはなかった。
だがおれはそのネーミングの違和感に気づいてから、スーパーやコンビニでこの『しあわせバタ〜』を見かけるたびに、モヤモヤしながらその袋をじ〜っと見つめるようになった。
すぐに買って食べれば良いのだが、「しあわせ」と言われるとちょっと重い感じがして、なんとなく億劫な気持ちになる。
幸せを手に入れるのってちょっと怖かったりする。
そうやって過ごしていたある日、コンビニのスナック菓子コーナーで驚くものが目に入ってきた。
それは『しあわせバタ〜』ではなく、『しあわせ”濃厚”バタ〜』の文字だった。
こともあろうか、普通の幸せでは飽き足らずに幸せを”濃厚”にして販売し始めたのだ。
えげつない商売である。人間の業は深い。
しかもこの『しあわせ濃厚バタ〜』は、期間限定商品らしい。
メタファーが効きすぎている。
幸せが濃厚であるとは一体、どういうことだろう。
おれは、もうしあわせバタ〜のことで頭がいっぱいになっていた。
しかし、これからの人生ずっとこのことで頭がいっぱいなのは癪である。
おれは意を決して『しあわせバタ〜』と『しあわせ濃厚バタ〜』を両方購入してみた。
しあわせは一見にしかずだ。
おれはさっそくその謎多きポテチを食べてみることにした。
まずは『しあわせバタ〜』から。
しあわせ度も徐々に上げていって慣らさないといけない。
いきなり濃厚なしあわせは、慣れない身体に危険があるかもしれないからだ。
なるほど、甘じょっぱい系か〜。
うん、おいしいじゃないか。
はちみつの丸い甘みとバターのコクがマッチしている。
これ〜、かなりイケる。
もう気持ちは孤独のグルメの井之頭五郎である。
確かに幸せっぽい味がする、気がする。
おれは袋の原材料表を見てみた。
じゃがいも(国内又はアメリカ)、植物油、砂糖、食塩、バターパウダー、果糖、コーンスターチ、たん白加水分解物(大豆を含む)、マスカルポーネチーズパウダー、クリーミングパウダー、酵母エキスパウダー、パセリ、はちみつパウダー、調味料(アミノ酸等)、香料、甘味料(アスパルテーム・L-フェニルアラニン化合物、スクラロース、ステビア)、酸味料
と記載されてあった。
そうかマスカルポーネがまろやかさを出して、パセリが味全体をまとめているのか。良く出来ている。
だが原材料に肝心の幸せは入っていないようだ。
では、一体この中のどれが幸せ成分なのだろう。
それともこの原料が全部あるいは、特定の原料同士が合わさることでしあわせ成分が生成されるのだろうか。
1日に幸せを2袋も食べるなんて、バチが当たる気がしたのでもう一つの『しあわせ濃厚バタ〜』は、次の日に食べた。
『しあわせ濃厚バタ〜』の方も大変おいしかった。
なんとなく定番の方よりも幸せが濃厚な気がした。
ただ、おれの幸せを享受する力が弱いのか、はっきりとした違いはそこまで分からないのであった。
確かなのは、「どちらも甘じょっぱくておいしい」ということだけである。
食べすすめていくと、次第に胸焼けしてきた。
10代の頃は平気で食べていたが、アラサーの胃に2日連続のポテチは正直キツい。
幸せには、適当な量とか受け取るのに適切なタイミングなどがあるのかもしれない。
それから数日後おれは「そうだ。」と思い、カルビーの公式ホームページを開いてみた。
すると、「よくいただくご質問」のページに、“「ポテトチップス しあわせバタ~」の【しあわせ】とはどういう意味ですか?」“という項目があるではないか。
しあわせバタ〜のネーミングに引っ掛かっているヒマな人間はおれだけではなかったのだ。
どれどれ、おれはQ&AのAを確認してみた。
“バター・はちみつ・パセリ・マスカルポーネチーズの4つの素材を合わせて、4あわせ(しあわせ)バタ~味としました。ほんのり甘じょっぱい、あと引くおいしさが楽しめる「ポテトチップス」です。”
と、書いてある。
なんと、「しあわせ」は「幸せ」のことではなかったのだ。
単純に味のことだったのだ。
おれは少子抜けしてしまった。
だとすると、2袋食べてもどの元カノからもラインが来ないのは当然である。
こうして『しあわせバタ〜』の大きな謎はアッサリと解けたのだった。
そして気が向いたら、たまにはまた食べてみようかなと思うアラサーなのであった。
ただし胃の調子と要相談である。
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