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書くことで点が線になる。

“読む”ことで点が線になる、と思う。

人はそれぞれ、その人だけの考え、感じ方、体験、哲学、物事の見方、感情などをいくつも持っている。
おれも多くの人と同じように、世界の大小あらゆることに対し、「自分の考え」みたいなものを持っている。

これら一つ一つのことを、「一つの点」だとする。

22歳の頃、おれは鬱になった。
休日は友達と遊ぶことも出来なくなり独りになった。

その頃、おれは読書をし始めた。
文章を読んでいる時だけは安心出来た。

小説やエッセイを中心に、たくさん本を読んだ。

他人が書いた文章を読んでいると、自分が持っている点と類似した点を見つけることがあった。
つまり自分の「自分の考え」と良く似た、他人の「自分の考え」だ。

作品全体を通して感じることもあれば、文章の一節にそれを感じることもあった。

「これおれが書いたっけ?」と思うような点、自分よりも深く核心を付いている点、まだ点になる前のモヤモヤを明確に言語化してくれている点、良く似ているけどおれのとは少し違う角度のついた点、さまざまな点と出会った。

そんな時、自分の点と文章の中の点が繋がり「線になった」と感じた。
そしてその瞬間にだけ、自分が自分であることの手触りを感じることが出来た。

もっというとおれは文章を通じて、自分と他者との繋がりを感じたのだ。当時の自分にとってはそれがほぼ唯一の希望だった。

人間は社会的な生き物であるから、ひとりでは生きることが出来ない。
少なくともおれはそうだ。

読書を通じて点が線になる瞬間、そこに「社会」の最小単位を感じた。
そしてその1番小さな社会に自分が参加しているという実感が大きな救いであった。

だからその時のおれにとって本を読む行為は、「何か」と繋がりを持つ手段だったのだ。
それを体感的に理解してからはさらに読書の量も増えた。

そうやって過ごしていると、徐々に鬱も落ち着いてくれた。




おれは22歳頃、マンガを描きはじめた。
そこから2、3年ほど描いてみたが、これが全くうまくいかなかった。(ちなみにこの間に、鬱になったり、本を読んだり、鬱が良くなったりした。)

自分の描く漫画はことごとく面白くなかったのだ。

自分のマンガを良く観察すると表面上のそれっぽいストーリー展開、キャラ、セリフ、オチがただ羅列されているだけだと言うことが分かってきた。つまり、「薄っぺらいマンガ」だったのだ。
だから、その作品を貫く一本の柱みたいなものもぐらぐらで、よく分からないマンガになっていた。

おれは「薄っぺらくないマンガ」を描く為に、まずは文章を書いてみることにした。
闇雲にマンガを描く前に、自分の内面を掘り下げて観察し、それをある程度の形で外に出してやる練習をしようと思ったのだ。

それと正直にいうと、描けないマンガを描くことに滅入っていたので、気分転換にも文章を書くことは良いだろうと考えた。




そしてネットに文章の投稿を始めた。

人の目に付く場所に載せることを前提にしなければ、なまけ者のおれはしっかりと書き切ることが出来ないだろうと思ったのだ。

思った以上に文章は読まれた。
文章で勝負をしているわけではなかったからこそ、フラットなテンションで書くことが出来、結果的に読み手にとって受け取りやすいものになっていたのかもしれない。

おれはいろいろなことを書いた。
鬱だった時の切実な話から、身近な生活のこと、くだらないアホ話。

少し余談だが、しんどかった時期のことを掘って書くことは、大変良いセラピーにもなった。

そして「これ、私も同じようなことを考えていました。」とか「自分も感じていたことを言語化してくれてありがとうございます。」的なコメントを貰うことが結構あった。

そして、おれはあることに気付いたのだ。
「あの時と同じだ。」

点が線になったのだ。
さらに言うと、繋がるという点では同じだが今回のそれは「逆の繋がり方」だった。

自分が書いた文章を読んで貰うことで点が線になった。
つまりおれは読むことではなく、書くことで繋がったのだ。

「書くことでも点は線」になるということに、書く側になってはじめて気付いた。

病みながら本を貪り読んでいた時期はこちらから一方的に繋がり、一方的に文章の方に感謝をしていた。
が、それはぜんぜん違った。

文章の方だって読まれることではじめて繋がっているのだ。

当たり前だが、「繋がる」ということは一方的には成り立たない。
両方が触れることで、はじめてふたつは繋がる。

人は孤独だと良く言われる。
でもそれぞれがその孤独な点であるからこそ、出会った時に線になって我々は繋がることが出来るのだ。

この体験や気づきによって世界やおれの生活が劇的に変わる、ことは特にないだろう。
でも、「書くこと」を前より少しだけ深く理解し直すことは出来た。

孤独は悪くない、と今は思う。
でも繋がるのもまた悪くない。

そしてこの文章もまた、おれの持つちょっとした一つの点なのである。


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