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創作をするのは、人を救う為か。

自分の価値観を一発で壊される瞬間ってたまにある。

“それ”が起きたのは、Kという同い年でデザイナーの女性の友達と飲みに行ったときだった。
このKとは、大体年に1回か2回くらいの頻度で会う。

大体、どこかでランチを食べて喋るか、居酒屋で飲んで喋るか、喫茶店でコーヒーを片手に喋るかだ。

お互い本好きなので、「最近読んだアレが面白かった」とか、好きな作家の話などをする。
よく本をあげたり、貸したりもし合っている。

他にはコンテンツの話、クリエイティブのいろいろ、アホ話、家族や恋愛や結婚の話、キャリアについて。
会うといろいろな話をするが、いい意味でお互いへの興味が薄く、適度な距離があるのが長く仲が続いている理由だと思う。

Kは物事を抽象的に捉えることが得意で、どちらかというと具体的に捉えることが苦手らしい。
逆におれはいろいろなことを具体的に捉えて考えるクセがあるが、抽象的に捉える力が弱い。

ふたり共クリエイティブを生業としているが、この「具体」と「抽象」のバランスが真逆なのだ。

だから会話を交換すると、広がって面白い。
そうやって、ゆるくずっと繋がっている関係なのだ。



ある日、道玄坂の上の方のある居酒屋でKと飲んだ。

おれはKに熱心に話をしていた。
それは、その数年前の病んでいた時期に、本を読み漁ることで抜け出した自分自身の体験についてだった。

Kは、おでんをムシャムシャ食べながら、「ほーほー」とそれを聞いていた。

ちょっと大袈裟かもしれないがおれはその時期のことについて、「読書に没頭したことで生きながらることが出来た。」という実感があった。

「だからさ、創作物って誰かを救う為に書くべきなんだって思ったんだよね。」
と、軽く酔っていたおれは得意げに真剣な顔でそうまとめた。

「あー分かる!」

みたいな返事が返って来るつもりのおれに、Kは言った。
「え、ダサ!」

「へ?」
たぶんおれはいつにもなくアホな顔をしていただろう。

「そんな傲慢なもの私読みたくないな。」

Kのこの言葉はおそらくおれに向けた反論みたいなものではなく、「人を救うために創作をするべき」という概念に向かって直感的に反応したものだと思う。たぶん。

だが、矢吹ジョーくらいのクロスカウンターを喰らったおれは、クラクラと半ニヤケ顔で「お〜。」みたいな謎のリアクションを取るしかなかった。
緑茶ハイで酔ったおれの顔は、さらに真っ赤になった。

でもおれはそこから何か「言い訳」をすることはなかった。
いや、出来なかったのだ。

妙に納得してしまったからだ。

自分の作品で誰を救いたいなんて、安易である。
Kが言う通り、その為に作品を作ろうとする姿勢は「ダサい」し、「傲慢」だ。



世の中では、「言語化」というものがブームだ。
嫌味でもなんでもなく言語化は確かに便利だとは思っている。

だが同時にたくさんのことを取りこぼしてもいるのだ。

そして、「ダサい」とか「傲慢」という表現は、とても「抽象的」だと思う。
「私読みたくないな。」っていうのも、Kの感情だ。

おれもいろんな「言葉」や「こと」をすぐ分解して、掘って、それこそ「具体的」に理解しようとすることが良くも悪くも多い。
いつもなら、「じゃあなぜダサいのだろうか?」とか「傲慢な作品とそうじゃない作品の違いってなんだろう?」とか頭でこねくり回してそれっぽい正解を出そうとしただろう。

ただこの時のKの言葉には分解する気も、掘る気も、具体的に理解する気も全く起きなかった。

おれはその言葉を抽象的なまま受け取って、抽象的なまま理解した。
「頭」ではなく、「腹」で理解した感覚があったのだ。

今考えると、これは抽象的に世界を捉えているKとの会話だったからこそだったのだと思う。
だから他人との会話は面白い。



ただ、おれは今でも「人を救うこと」は創作物とか表現の一つの大きな機能だと思っている。
おれ自身が実際に苦しい時期、他人の創作に救われたからだ。

今まさに落ちている人が本に救いを求めたり、実際に救われることは基本的にはとても良いことだ。

ただ、語弊を恐れずにいうと読み手が“勝手“に救われるべきなのだと思う。
そして作品は、純粋に作品を作る為に作られるべきなのだ。

それが作品(や作り手)と読み手の健全な関係というものである。

おれが書いたもので、もし誰かが救われることがあるとすればこんなに嬉しいことはないと思っている。

でも、おれに出来るのは「作品を作ること」に集中することだけなのだ。
そしてその作品をより良いものにする為にヒーヒー言うことくらいだ。

「え?ダサ!」
「そんな傲慢なもの私読みたくないな。」

調子に乗りやすいおれなので、この言葉をたまに思い出しながら何かを作っていきたい。
と、今は思っている。

最後まで読んでくれてありがとうございます! ふだんバイトしながら創作活動しています。 コーヒーでも奢るようなお気持ちで少しでもサポートしていただけると、とっても嬉しいです!