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北陸本線・九頭竜線・えちぜん鉄道の旅


早朝の湖西線で敦賀へ

 2023年11月初旬の3連休、その中日にJR北陸本線から九頭竜線(越美北線)、そしてえちぜん鉄道勝山永平寺線の乗車を目指す。
 早朝6時半過ぎに自宅を出発。7時前の湖西線下り永原行き普通電車は乗客はまばらで、一日の長丁場に備えゆっくりと座席に腰を下ろす。
 7:09終点・永原着。外は霧が立ちこめ、少し寒い。昨日の予報では今日も高温が予想されていたので薄着できたことを少し後悔する。
 乗ってきた電車は京都行き上り電車となり、すぐに折り返していく。8両編成の車両に乗客はほとんどない。電車の去ったホームには冷たい風が吹き、一層の寂寞感が漂っている。待つこと数分、7:18近江今津から後を追いかけてきた米原行き普通電車が到着。こちらは2両編成で、意外と混み合い座席はほぼ埋まっている。一駅しか乗車しないので一番前のスペースで立って過ごす。車内には鉄道ファンと思われる青年がぽつぽついて、脚立とカメラを持った「撮り鉄青年」も2名ほど見られる。

    7:24近江塩津駅に到着。ホームから長い階段を下り、向かいのホームを目指す。乗り換え時間は3分しかなく、結構気ぜわしい。同じように乗り換える人たちは意外と多く、みんな小走りで階段を下りてまた登る。対外試合に向かう中学生の集団なども見られる。みんないい表情をしている。向かいのホームに到着したのとほぼ同時に、7:27敦賀行き電車が到着。電車は2両編成で、座席はほぼ満席。休日の朝にしては意外な感じを受けたが、何とか席を確保して落ち着いた。

敦賀から懐かしの北陸路を行く

 7:40定刻に敦賀着。降りたホームのすぐ向かいに福井行き4両編成の電車が待っている。素早く乗り込み席を確保。2分の接続で7:42敦賀を出発する。上空には完成した新幹線の高架が見える。大きな建造物で迫力満点である。

 敦賀を出てすぐにトンネルに入る。何も考えずにいたが、途中でこのトンネルの長さに気づく。そしてこれが、(だいぶ)かつて日本一の長さを誇った北陸トンネルであることを思い出す。学生時代、金沢の下宿先から自宅に戻るとき、列車がこのトンネルを抜けて敦賀にさしかかると「帰ってきた・・」との気分になっていたのを思い出す。
 10分ほどトンネルを走り、抜けたところで7:55南今庄着。山間の駅である。ようやく霧も晴れ、秋の日差しが届いている。
 その後も今庄、南条、王子保と、かつて列車の窓から見ていた懐かしい名前の駅が続く。各駅のホームには積雪を図るポールが立てられている。目盛は2mまで。冬場はたいへんそうである。
 窓外は田畑の間に家々。のどかな風景が続く。
 やがて市街地が広がり、8:14武生着。何名かの乗客が乗り降りし、車内はほぼ埋まる。武生も懐かしい名前であるが、今はその市名がなくなってしまった(市町村合併により越前市に)のは他人ごとながらなぜか寂しさを覚えてしまう。ただこうして駅名だけが残っているのはほっとするし、新たに開業する新幹線にも「越前たけふ駅」ができるのが、こちらも他人ごとながらなぜかうれしい。
 8:20鯖江着。ホームには「めがねのまち」の大きな看板。近くの山裾にも看板があったのを思い出す。鯖江で特急列車の通過待ち。車内はほぼ満員で、立ち客も増えてくる。休日の朝の混み具合としては、予想していたイメージとは少し異なる。8:23鯖江を出発し、8:31大土呂着。校外学習らしき中学生のグループがここで下車するが、休日でもあり、どのような事情なのか少しの疑問…。
 しばらく走って、やがて頭上に新幹線の巨大な高架が迫ってくる。
 8:35高架の真下にある越前花堂駅着。新幹線に覆い被されそうな小さな駅であるが、この後乗車予定の九頭竜線(越美北線)はこの駅から分岐する。

近代化された福井駅

 やがて電車はスピードを緩め、定刻8:38福井に到着した。高校時代に初めて訪れたとき、ホームに降り立つと同時にマイクを握った駅員さんが独特の抑揚で「ふく~い」とアナウンスしていた姿がなぜか鮮明によみがえる。今回の旅は、昔のことを思い出すことが多い。

    それから半世紀近くたった福井駅はもちろんきれいにリニューアルされており、多くの乗客が行き交うホームには特急「サンダーバード」、続いて「しらさぎ」が到着して出発していく。今回新幹線駅も併設されたことから、一部工事区画があるものの近代的な都会駅の様相である。各自治体がわが町への新幹線の開通を願うのもうなずける。ちなみにコンコース脇のトイレもとても明るく清潔で、手洗いの蛇口からは高級ホテルなみにお湯が出た。

    駅の見物もそこそこに、九頭竜線乗り場に向かう。階段を上った2番線の奥に「九頭竜線乗り場この先100m」との表示がある。そしてよく見ると、「九頭竜線の各駅はICカードが利用できません」との表示も。ICカードで入場している人は駅員に申し出るようにとのアナウンスも聞こえ、急いで改札へ戻る。駅員にイコカの処理をしてもらい改札の外へ。そして自動券売機で九頭竜湖までの切符1170円を購入し、再び入場。無事に準備が完了した。
 乗り場に戻ると2両編成の列車がすでに入線しており、座席はほぼ埋まりかけている。車体は派手な恐竜の絵できらきらしている。車内アナウンスによると、本日は途中駅のどこかでイベントがあり、特別に2両編成としているとのこと。普段は1両編成のようである。車内は4人掛けボックスシート半分とロングシート半分の仕様。乗降口のドアは蛇腹式で横には両替機と運賃箱が設置されたワンマンカーである。この部分だけを見れば路線バスのようである。

いよいよ九頭竜線へ

 ボックス席の一つに席を確保して落ち着いたところで、定刻9:08、ディーゼルエンジンのうなり声を上げて九頭竜湖行きの列車が出発した。すぐに越前花堂着。先ほど通ってきた駅である。ここから単線の線路が分岐し、九頭竜湖に向かう。いよいよ九頭竜線の旅の始まりである。
 線路はすぐに市街地をはずれ、田園地帯に入る。広大な福井平野を単線の線路が突き抜けていく。窓からは柔らかな秋の日差しが注ぐ。列車はゆっくりとしたスピードで進んでいく。
 9:19足羽着。駅前に見える中学校のグラウンドでは赤と青のユニフォームに分かれた生徒たちがサッカーの試合に熱中している。
 9:27一乗谷着。歴史を感じさせる地名である。ここを過ぎたあたりから山が迫ってくる。上り勾配がきつくなってきたのか、列車のスピードはさらに落ち、エンジンのうなり声が高まる。乗客は地元の人半分、旅行客半分といったところか。

 各駅で乗客は少しずつ乗り降りしていく。駅や線路のすぐ脇に民家があり、駅間の距離も短いことから、住民にとっては便利に見えるが、何せ列車の本数は一日に8本程度と少ないので、やはりこれ以上の利用客の増加は難しいのか…。 

    9:33市波を過ぎた頃から、九頭竜川が併走するようになる。九頭竜川は日本海へ注ぐ頃には大河となるが、この辺りでは未だその様相はない。列車はジグザグに鉄橋で川を渡りながら、ひたすら前へ進んでいく。
 9:58牛ヶ原で少し山地が開け、広大な田園風景が戻ってくる。越前大野が近いのか。
 10:00北大野着。そして10:04越前大野に到着する。多くの乗客が降り、車内がいっきに閑散となる。引き込み線には来たる冬に備えて、いかついラッセル車が待機しているのが見える。帰りはこの駅で下車予定である。
 10:07越前大野発。窓からは相変わらず秋の日差しがさし続け、少し暑くなってくる。朝の寒さが嘘のようであるが、さすが天気予報通り。列車は広々とした田園地帯を走っていく。高規格の道路も見えたりする。

山地をかき分け九頭竜湖に到着

 10:20下唯野着。この手前あたりから、再び山地が近づいてくる。福井出発以来、車内で会話する人は全くなく、静かなときが流れている。聞こえてくるのは列車のエンジン音と、駅が近づくたびに流れるアナウンスの自動音声のみである。
 10:22柿ヶ島を過ぎていっきに山間部に入る。そして右手には九頭竜川。木々の間に大きなダムや発電設備なども見える。

    10:29勝原着。ホームでは中年女性3名がわが列車の写真をしきりにスマホで撮っている。終着まであと少し。車内は10名ほどとなっている。相変わらず沈黙の中で、皆旅の終わりを待っている。すぐに長いトンネルに入り、抜けたところで10:37越前下山着。峡谷の風情である。
 そして10:42、列車は定刻に九頭竜湖着。1時間30分の九頭竜線の旅が終わった。

越前大野までUターン

 10:42に九頭竜湖駅に到着した列車は、折り返し10:56発福井行きとなる。これを乗り過ごせば、次は14:32発までない。3時間半をこの場所で過ごすわけにはいかないので、滞在時間はわずか15分となるがこの列車で引き返すことにする。

    改札を通っていったん駅前に出るが、付近は観光客で結構な賑わいである。ほとんどがマイカー利用のようである。天気も良く、皆飲み物を手にしたり写真を撮ったりして楽しそう。そうした人たちを横目に、有人改札口で切符を購入。越前大野まで420円。トイレを済ませ、列車に乗り込む。
 車内はぱらぱらであるが、先ほど乗ってきた人たちはどうするのだろう。ここで3時間半を過ごすのか、この先徒歩で進むのか…、などと他人様のことを考えているうちに、定刻10:56列車は出発した。そして来た道を引き返し、11:30越前大野に到着。下車。
 切符は下車時に運転士が回収するシステムのようである。記念にもらえないかと頼んでみたが、運転士さんは申し訳なさそうに「すみません、できないんです。」との返事。了解しました。

越前大野から勝山へ

 越前大野はこの路線中最大の町であるが、駅は無人であった。少し歩けば越前大野城などの観光スポットもあるようだが、見物はあきらめて先を急ぐことにする。駅前ロータリーに「大野タクシー」の看板を掲げた建物があり、前に1台無人のタクシーが止まっている。建物の中はガラス越しに丸見えで、事務所ふうの部屋で年配のおじさんとおばさんが何やら楽しそうに話をしている。「タクシーに乗りたいんですが」と手で合図すると、すぐに2人は外へ出てきて「はいよ」と返事。「勝山駅までお願いしたいんですが」と改めて言うと、おばさんの方が「勝山駅までお願いしま~す」と復唱、運転席に乗り込んだ年配のおじさんはもう一度「はいよ」と返事をして、すぐに車を発進させる。なかなか息のあった2人のようである。
 出発してすぐに年配の運転手さんは、「以前は列車ももう少し本数があったのだが、今は減らされて」と申し訳なさそうに言ってくれる。当方は、元より勝山からのえちぜん鉄道に乗るのが目的なのだが、運転手さんとしては福井へ戻るのに仕方なく勝山へ移動するものと思ってくれているようである。本当のことを言うのもややこしいので適当に相づちをうちながら、「勝山の方はもう少し本数ありますよね」と言うと、「30分に1本あるから」と、愛想良くしゃべってくれる。
 車は大野市の町中を走り抜けていく。家々の玄関にはガラスで囲まれた温室のようなスペースが作られているのが見える。冬場の降雪対策であることがすぐにわかる。運転手さんに「このあたり雪はどれくらい降るんですか」と聞いてみる。運転手さんは、聞かれ慣れている、といった感じで「2mくらいかな」「以前よりはだいぶ少なくなったけど」と即答してくれる。
 15分くらいでえちぜん鉄道・勝山駅に到着。料金は4220円。予想していたより少し高かった。駅は町の中心部から離れているようで、あたりに市街地はない。ただ駅前広場は恐竜モニュメントや恐竜の看板などが立ち、恐竜一色である。勝山には福井県が誇る恐竜博物館があり一大観光地であるのだが、訪れる人はたぶんほとんどがマイカー利用なのだろう。すぐ横に食堂を見つけて入店。昼食を済ませる。

アテンダントが乗るえちぜん鉄道

 駅に戻り改札口で切符を購入する。改札口には女性が一人。福井まで770円。女性は「目の前の電車です」と親切に教えてくれる。
 言われたとおり、目の前に1両編制の電車が出発を待っている。車体はブルーに白のストライプ。恐竜のイラストではなかったのは少し拍子抜け!
 

    最前の横向きの席を確保して出発を待つ。そして向かいのホームに対向の電車が到着したのを待って、12:49定刻に電車は勝山駅を出発した。乗客は10名程度である。
 驚いたことに車内には「アテンダント」の名札をつけ、制服に帽子をまとった女性の車掌さんが乗車している。年齢は20代と見える。アテンダントさんは最前のスペースに立ち、途中駅で乗車した客に近寄って切符を販売したり、すれ違い駅で電車が停車した際などに必要なアナウンスを行ったりしている。若い女性の職業として、新鮮さを感じる。 

 電車はくねくねとカーブする線路の上を心地よい車輪のきしみ音を立てながら進んでいく。最前の席に座っているため、進む電車の前窓からの景色がよく見える。線路の脇には小径が沿い、小川や民家、田畑などが入れ替わり現れる。たわわに実をつけた柿の木などもよく出てくる。のどかな田舎の風景である。

すれ違いは右?左?

 13:00小舟渡駅あたりで、右手に九頭竜川が見えてくる。午前中に九頭竜線から見た姿に比べ、ずいぶんと川幅が広がっている。左手を見ると、道路には「永平寺町」の看板が見える。
 13:05越前竹原で対向電車とすれ違う。右側通行の形ですれ違うのに少しの違和感。ただしほとんど待ち時間はなく、正確な時刻で運行されているのが分かる。
 13:12轟着。車内の表示を見て「どめき」と読むことを知る。これは難しい。
 13:18永平寺口着。観光客でいっぱいなのかとの予想に反して、乗降する客はほとんどない。この駅でも対向電車とすれ違うが、今回は左側通行の形である。
 13:20永平寺口を出発。景色に大きな変化はなく、九頭竜川が作った沖積平野の上を民家や畑の間を縫うように電車は走り抜けていく。乗客は20名程度。途中駅で降りる人はほとんどなく、ぽつぽつと乗ってくるばかりである。そのたびにアテンダントさんが近寄り切符を販売している。
 13:25松岡着。左側通行で対向電車とすれ違う。
 13:28観音町着。乗車する人多数で、座席の半分以上が埋まる。
 13:35越前新保着。今度はまた右側通行で対向電車とすれ違う。どのような事情で左右になるのか知りたいところである。

市民の足としての存在

 越前新保、そして次の越前開発からは乗客多数で、車内で立つ人も多くなってきた。休日の昼下がりと言うことで、親子連れの姿や若者からお年寄りまで、様々な客層で車内はいっぱいでにぎやかになる。1両編成とはいえ、30分に1本のダイヤでこれだけの乗客があれば十分に採算がとれるのではないかと、素人ながらに感じてしまう。少なくとも観光客や鉄道ファン頼りのローカル線というより、市民の足としてえちぜん鉄道が根付いている様子が感じられる。
 13:40福井口着。知らぬ間に窓外には都会の町並みが広がり、マンションやビルが林立している。
 13:42新福井、そしてゆっくり走って定刻13:43、終点・福井に到着した。
 えちぜん鉄道の福井駅はJR福井駅に隣接し、便利な立地にある。駅周辺を少し歩くが、町並みは都会的で、やはり新幹線開業を迎える熱い期待感のようなものを町全体に感じる。

新幹線開業前夜の敦賀駅

 本日の目的を達して、家路につく。
 14:12福井発敦賀行きの普通電車に乗車。4両編成の電車は満員である。
 15:03敦賀着。15:23発の湖西線まわり新快速姫路行きも、旅行客で車内はほぼ満員である。
 敦賀を出てすぐ、左手の新幹線の車両基地に1台の新幹線車両が納められているのが見えたが、惜しくもシャッターチャンスを逃す。と思っていたら、当日夜のNHKテレビ『ブラタモリ』はなんと「敦賀」の回。つい先ほど眺めていた敦賀駅の巨大な新幹線ホームが画面に存分に映し出され満足した。

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