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二郎系ラーメンと富士登山
近所にあるラーメン屋。
ガラス張りで丸見えの店内。
前を通ると鼻に付く毒毒の香り(独特の香り)。
どれを取ってもお手上げの二郎系ラーメンだ。(食べログには「インスパイア系」と書いてあるが、細かいカテゴリーは正直どうでもいい。笑)
昔々にラーメン二郎(目黒店)に行った事があったが、25歳ぐらいだったか。食べ終わった後に「もう俺の食べる時代は終わったよ、、」などと伝説のアスリートよろしく終戦宣言をして以来コレ系のラーメンとは無縁の人生を歩んできた。
この二郎系と呼ばれるラーメン。
他のコッテリとは別物で、別名「豚の餌」などと揶揄される理由がファンでも分かる代物なのだ。何というか食の暴力なのだ。
ファン達が「ジロリアン」などと呼ばれる謎の宗教色も僕の足を遠ざけた。
粉っぽい麺、グラム数など店主さえも把握してなさそうな「野菜多め」、出て行った彼女の様に儚げにも強烈に存在感を伝えてくる「ニンニク」。
もう一度言うが、どれを取ってもお手上げの伝統芸能なのだ。
そんな伝統芸能を「食べてみようかな、、」と思ってしまった夏の終わりの日暮れ頃。(嫁も帰国していて そのつまらなさを何かで埋めたかったのかも知れない。)
今にして思えば気の迷いだったのかも知れない。
自宅から歩いて5分。勇気を出して入った店内には、無愛想な店主。カウンターに座るはBMI値ピークギリギリを感じさせる男性群(女性ゼロ)。ローカルルールと思われるちり紙の捨てる場所を指定する注意書きの文言。
怖っ。なんか怖っ!
先ずは食券の購入。定番がいい。こういう時は一番誰もが頼む定番がいい。
食前の豚達に何度も何度も押されたであろう一番磨り減って黄ばんだラーメンのボタンをプッシュ。
カウンター越しに店主に引き渡す食券をタイミングで丁寧に伝える「麺固めでお願いします。」
言えた!我ながら上手に言えた!頭の中で数回復唱してから伝えた甲斐があった!
なんで固めにしたのか分からないが、こだわりを見せられた!
しかし何故だろう。こういう時に初心者感を出す事に妙な「負けた感」がある。
「俺、よく来っからさ」みたいな自分を演出したくなる。我ながらダサいと分かっていながら、これも二郎の策略か。それがお前のやり方かっ!
先に来ている豚達に手際よくラーメンが差し出されるのを眺めながら、一抹の緊張感を自らの喉元に見つける。
そう皆 仕上がりの直前に念仏の様に希望のトッピングを伝えているのだ。
なんだ?何が無難なんだ?量多くね?なんて頼んだらアレがくるんだ?
ふわぁーー。
「お好みは?」
(来たー!僕の番だー。)
「えーっと、野菜おっ多めの。ニンニクでお願いします」
(いいのか?これで良いのか?)
「はいよ。」
(良いみたいー!)笑
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はい。ドーン。
なにこれー。麺見えなーい。もやしラーメーン!?ニンニク生ー?
正直「あ、これ死んだ。」
本当にそう思った。食を前にして「やらなきゃやられる」何て気持ちになるとは思わなかった。
「頂きます。」気分は最後の晩餐だ。
取り敢えず、もやしを掴み取っては口に運び口運び噛み締める。
好きな人に会う為に、雑木林を掻き分けていく主人公。そんな気分だ。
減らねー。もやし減らねー。
スープに浸しながら掻き分け掻き分け、やっと麺までたどり着く。
固えー。麺固えー。(俺が頼んだんだけど、、)
流石、バイオレンス。食のバイオレンス。
でも、美味い!なんだ?美味いぞ!
食べられる!食べられるぞ!
(天空の城のラピュタのムスカが、王国文字を読めた時の感動ってきっとこんな感じなのだろうか。)
よっしゃー!もう僕も立派な豚野郎だー!
あんなにあった野菜の山が丘になり、盆地よろしく瞬く間に丼の中の物体が消えていく。
「麺多め」で良かったんじゃね?
そんな驕り高ぶる気持ちさえ心の中に火を灯す。
最後の一本のもやしや麺のカケラを箸で突いては名残を惜しむ。
「また来るよ。」
まさか見事食べられるとは。しかも楽勝である。
無名の挑戦者がまさかのタイトル奪取である。
なんだろうこの爽快感は。そして黙ってはいられない達成感は。
俺食べたんだぜ。二郎系ラーメン食べたんだぜ!韓国で暮らす嫁の義両親にも伝えたくなる高揚感だ。
「二郎系ラーメンは、富士登山に似てるな」
そんな事をふと思った。
「この前、富士山登ったんだよねー。」
誰かに自慢したくなる特別感がそこにはある。
「大変だったけど、一度経験して良かったよー。」「またいつかチャレンジしたいよねー。」
誰も聞いてないのに自分の中でだけで収められない「やったった感」が溢れ出る。
きっと、明日以降話してしまうだろう。
仕事仲間に、お客さんに、なんなら今すぐにでも帰国中の我がパートナーに。
痛みに耐えてよく頑張った!
そう時の首相から言われた様な安堵感と自らの存在感の肯定を感じながら店を後にする。
きっとまた行ってしまうだろう。
「そこに山があるから」なんてトチ狂った想いにも似た、「そこに二郎があるから」。
富士山頂から眺めるご来光にも似た夕陽が、僕の街に染み込んでいく。
「今日もいい日だ!」
穏やかな気持ちと手をつなぐ様に、明日の自分を描きながら、知らない人達が駅に吸い込まれていく景色を横目に、僕もまた大好きな我が家に吸い込まれていくのであった。
ありがとうラーメン二郎。
本当にありがとう。
とここまで書いておいて、自分は富士山に登った事はないのであって。
皆様の大切な時間を奪ってまで何を熱く語ったのかと、今猛省しておる所です。
お詫び申し上げます。
これからも宜しくお願い致します。
笑
本当に有難うございます。 サポート頂きましたお金は、設立間もない会社の運営資金に当てさせて頂き、その優しさを止める事なく、必ず皆様へのサービスへと還元させて頂く事をお約束致します。