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スカパンの悪だくみ

尼崎にある、ピッコロシアターで5月23日から公演されている、『スカパンの悪だくみ』の、初日を見に行ってきました。

赤いネコのかわいいチラシと、タイトルの面白さに惹かれて、可愛らしいお芝居と思ってました。
ところが、原作は、何と17世紀の作品!書いたのはモリエールという、古典主義の三大作家のひとりだそうです。
日本でいえば、江戸時代の作品。近松門左衛門より古い!こんな昔の作品を、現代の大阪弁で演じるという、なかなか攻めているお芝居でした。

ざっとしたあらすじとしては、金持ちのボンボンに仕えるスカパンが、ボンボンの失敗を、口先でごまかして、ハッピーエンドに、というお話です。
金持ちのオトンたちは、横暴で気に入らないことがあると、すぐに従者に暴力をふるったり、子どもを意のままに支配しようとする、要は、がちがちの昭和の頑固おやじたちです。(実際は江戸時代のイタリアの頑固おやじ)

この頑固おやじに逆らえないボンボンを、従者のスカパンが、悪知恵を凝らして、ボンボンを助けるのだけれど、ボンボンを単に助けるだけでなく、ちゃっかい自分の利益を確保するわ、私怨を晴らしたりと、支配層に対して、支配されている者たちが、日ごろのうっ憤を晴らして、ケラケラ笑うという17世紀的な喜劇、モーツアルトのオペラなんかでもあるやつですね。

せりふ回しも軽妙で、間に挟まるダンスもきれいだし、ボンボンの恋人のイアサントは訳がわからないし、セルビネットは可愛いし、ボンボンの父親のジェロントはとぼけてて、とても面白かったです。


しかしながら、令和の21世紀の日本人としては、やりすぎ!というところもあって、単純に笑ってはいられない所もありました。
スカパンの同僚のシルヴェスドルが、ボンボンのおやじアルガントにどつかれ、蹴り倒されまくったり、スカパンが、主人のジェロントをずたぶくろに入れてどつきまくる、というシーンがあるんですが、これらはちょっときつかった。
暴力では、今の時代は笑えないですね。
このシーンが、このお芝居の最高の見せ場で、大爆笑を取る場面みたいで、その証拠に、チラシもこの場面を絵にしているので、きっと最高に盛り上げる場面のはずです。
しかし、客席は、そんなに盛り上がらなかったと思う、違和感を持ったのは、たぶん僕だけじゃなかったと思う。

暴力では笑えない。
このお芝居を見るまでは、そんなことを思うことはなかったのですが、いつの間にか自分の感性が、世間の常識というやつを取り入れて、笑えなくなっているんですね。
自分の笑いの基準も、いつの間にか世の中の基準に正されている、これは少し怖いことでもある、と思います。

権力に押さえつけられていて、その権力者に知恵で逆らって、権力者をボコボコにするというのは、本当は単純に面白いはずなのに、どうして笑えなかったのか、
17世紀のイタリアでは大爆笑のシーンが、21世紀の日本では、あまり受けない、権力者からの圧迫度が違うのか、反抗心をなくしてしまったのか、どっちなんだろうか?

17世紀のイタリア人と、21世紀の日本人、どちらが幸せなんだろうか?
僕は、21世紀の日本人の方が幸せであると思いたい。

※イラストは、公式チラシを僕が模写したものです。

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