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走る男

通過待ちで停車している静かな電車の車輌の中。
はじめに聞こえたのは音だった。ドッドッドッと、何かと何かが衝突し合うときに発生する音。
目を向けると車両内を人が走ってくる。
平日昼過ぎのまばらな乗客は、一様にその人物の方へ首を向けた。
バタバタ走るとはこういうことか。という感じで、上半身を大きく揺らしながら走るその人物は右手にスポーツ新聞を持ちニット帽を被り、カシャカシャの上着を着て、リュックサックを背負っていた服装のわりに若い色白で肌艶のいい丸顔の男だ。
車両間を繋ぐ引き戸をダンッと、大きな音を立てて開けて、通り過ぎたあとも勢いよくダンッと大音を立てて扉を閉め、足音と共に男は列車後方に駆けて行った。
男を目で追っていた乗客たちは一旦走り去る男を見送ったのち、男の来た方を向きなおり何もないのを確認したあと、各々目が合い、気まずそうに会釈したり軽く微笑んだりしていた。

何駅か進んだ数分後、この珍妙な出来事をメモしていると再びダッダッダッという足音が今度は止まっている駅のホームに響き渡った。
見ると先ほどの男がホームをバタバタと走り、階段をおりて行った。
それだけのメモに貴重な移動時間を費やする価値があったのかはわからない。
いったい私は何をしているのだろうか。

人生つらけりゃ 俳句を読めよ
言葉が足りなきゃ短歌があるぜ

「ならば問う 人生とは何ぞや?」
「ならば問う 人生とは何ぞや?」

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