Road to 2023 ~女子サッカーW杯 開催国決定までの道のり Part1~

2020年6月25日、2023年に行われる女子サッカーW杯の開催地がオーストラリア / ニュージーランド(以下、ANZ)の共同開催に決まりました。


最も緊張感のある最終投票は、ANZとコロンビアの一騎打ちという構図でしたが、その前に行われた開催地評価の中間報告書にて両候補間には大差があり、当事者の緊張感はともかく、第三者的には予想通りの結果となりました。
そして、本来はこのレースを最もエキサイティングなものにするはずだった日本は最終投票の3日前である6月22日に突然の"撤退宣言"というをサプライズにより日本中の関係者を失望の渦へと引きずり込んだのです。

同時にこれは、2013年12月にJFA理事会で決議した「2023年W杯誘致への立候補」という約6年半に及ぶ日本サッカー界の一大プロジェクトが失敗に終わったことも意味しました。

日本の現役プレーヤー含む関係者やファンからは、「せめて投票には進んでほしかった」、「悔しい」などの声が数多く聞こえる一方、JFAと距離の近い選手などはなかなかその心中を素直に表現できない事情などもあるのか比較的マイルドな発言が目立ち、なおさら今回の決定へのもどかしさがSNSの行間などから滲み出ていたりもしました。

私は日米のサッカーにおけるブリッジ活動に足を突っ込み始めたばかりで、関係者と太いコネクションがあるわけでもないので内情に詳しくはないのですが、個人的にも非常に悔しい結果であると同時に、今回の決定に至るまでの流れがどのようなものだったのかを冷静に把握したいという想いから、起こったことの事象を中心に整理・分析したいと思います。


2023年サッカーW杯誘致活動の始まり


2019年3月12日

W杯開催国になるための必要手続きである2023年W杯への「意思表明書」をJFAよりFIFAに対して提出し、招致活動の第一歩を踏み出します。

同時点で、日本以外に提出したのは以下8ヶ国の計9ヶ国。

南アフリカ、アルゼンチン、オーストラリア、ボリビア、ブラジル、コロンビア、韓国(北朝鮮と共催の可能性)、ニュージーランド。


2019年4月11日

招致登録書」を提出。これによりいわゆる正式な誘致に名乗りを上げた形になりました。ここからしばらくはFIFAが規定する立候補書類をとりまとめる内部的な作業に移ります。


2019年7月31日

2023年女子サッカーW杯の参加チーム数を24→32ヶ国に拡大するという発表もありました。

一見すると今回の候補地選定には何ら関係がなさそうな参加国数の変更ですが、今回の開催地レースにこの後非常に大きな影響を与えることになります。(Part2以降で)


2019年12月13日

「最終書類・開催合意書」の提出期限。候補国の辞退(未提出)により最終的に日本を含む4候補地(ブラジル、コロンビア、ANZ、日本)に絞り込まれたのです。この4カ国が翌年のFIFAの視察対象国となります。

 ANZブラジルコロンビア日本

※参考までに、各国の最終提出資料を上記にリンクします。

やはり最大のサプライズは、オーストラリアとニュージーランドという異なるリージョン(AFCとOFC)に属する二ヶ国の共同開催提案です。


候補地視察開始、そして開催地決定へ

2020年初旬、世の中がコロナで混乱する直前のタイミングで最終候補地に対して視察が入ります。

日本は2/24から4日間、候補国の中では最後という日程でした。
ここでは日本唯一のバロンドール受賞者の澤さんも参加するなど、文字通り日本サッカー界をあげての対応となりました。

この視察結果が"中間報告"という形で発表されるのが6月10日。約100日ほど間が空くのですが、おそらく水面下でものすごい駆け引きやLobby活動が行われる勝負の100日でもあったと思われます。


2020年6月8日

ANZ共同開催に続く2つ目の大きなサプライズとして、中間報告の結果発表のわずか2日前、"ブラジル辞退"という情報がブラジルサッカー連盟のHPを通じて発表されました。

辞退理由は、「新型コロナウイルスの流行によってもたらされた経済・財政緊縮策を考えると、FIFA=国際サッカー連盟が求める保証には署名できない」としており、政府が経済政策において世論の批判にさらされている中、サッカー投資に消極的だとのことで、サッカー協会としてFIFAが求める国からのバックアップが得られないとのことでした。

これもPart2以降で詳しく述べていきたいと思いますが(出し惜しみですいません)、このニュースに何よりも歓喜したのは南米票を統一できるコロンビアではなく、実はANZでした。

ブラジル辞退のタイミングはこれより後ではありえず、ギリギリのタイミング。背後に非常に複雑な政治的駆け引きが見え隠れします。


2020年6月10日

中間報告書がFIFAから公表されます。以下、評価点と評価ポイントのサマリとなります。
 ANZ 4.1 Points 「最も商業的に有利な提案」
 日本 3.9 Points 「会場とインフラの質が高く、アジア全体のテレビ視聴者を獲得できる」
 コロンビア 2.8 Points 「大きな投資と支援が必要」

※以下はFIFAの中間報告書の原文です。(P.11に簡単なサマリー有)

https://img.fifa.com/image/upload/hygmh1hhjpg30lbd6ppe.pdf

残っていればブラジルが何Pointだったのか大変気になります。。。

コロンビアに関しては2位の日本にも遠く及ばず、またはFIFA評価として「追加投資が必要」とかなり厳しいコメントが付与されました。この時点でANZと日本の一騎打ち感。北半球と南半球というシーズンの違いはあれど比較的環境が整い、放送における時差もほとんどない両候補が最終的にどう決着がつくか、非常に興味深いレース終盤かと思われました。

その結果が表れるのは6/25にスイスで行われた最終投票、ではなく3日前の6/22、まさに寝耳に水というべき衝撃的なニュースが駆け巡りました。


2020年6月22日

ANZにとって最大のライバルであった日本が辞退。ロスタイムどころか90分経たずの決着となりました。

これも結果論となりますが、SNS中心にみるとかなり話題となっていた本件も、いわゆる4マスと呼ばれる従来のメディアではそれほど取り上げられていた印象はなく、各ニュースのTopを飾っていたANZとの熱量は驚くほど異なり、誘致以前に国内にその土壌を作り上げられていなかった、という言い方は敗者の弁として言えるかもしれません。(ANZの歓喜は日本の男子W杯初出場くらいのインパクトをもって両国にて伝播しています)

2020年6月25日

運命の投票日。もはや日本でこれが報道されることはほぼありませんでした。そして、大方の予想通り、22 vs 13 (NZとコロンビアの2票が無投票)という票差でANZに決定しました。

こちらもPart2以降に記載しますが、この投票の内訳をみると驚くほど大陸別のサッカー連盟が意思統一をして動いており、いかにLobby活動が重要だったか分かります。

同時に、中間報告書のスコアに果たして意味があるのかを考えさせられます。

画像1

▲開催国候補の絞られていく一連の流れ

ANZ開催は素晴らしいことだと思いますし、ぜひ大盛況だったフランス大会を超える成功を収めてほしいと思います。

Part2以降は、ANZ勝利に向かう上でのキーとなる様々な要素、32ヶ国への拡大、ANZ共同開催案、ブラジル辞退の意味、そして最終投票の内訳に見るAFC内の政治力学などを分析していきたいと思います。



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