共通言語化について
ことばは身近な範囲では共通である。しかし場所が異なれば、離れれば離れるほどことばは別のものになっていく。多分1000km離れれば、結構,ことばは変わる。
また時間経過によっても変わる。10年前のことばは今も通じるが、1000年前となれば、変化があり、学習しなければ理解できないだろう。
ことばの共通性も物理学のように位置と時間という変数に従っているようである。
ことばの変化については別に指数化できそうだということを述べた。
言語の変化にはばらける方向(分散化)と共通化する方向(収束)がある。
通常分散化と共通化は同時にどこかで起きている、しかし分散化速度と共通化速度がつりあっていれば、結果的にはさほど言語は変化しない。しかし非常に長期的、あるいは広範囲にみていけば言語は徐々に変化しているものである。
ここでは言語の共通化に関して考える。
共通化というのは意思疎通の結果であるし、自然というよりも、より意図的に行われることである。大きな範囲でみれば文化接触の結果でもある。借用語、外来語というのもそれである。言語共通化が進むと文化、文明が成長する。
1.自然共通化
母語、近隣語のことである。ヒトが母語を覚えるのは基本的に母親の話すことばを幼児期に習得することである。だから同時代において親子の言語は共通である。自然共通化の範囲は地理的には小河川流域あたり程度ということになろう。小河川は大きな川の支流のことである。大体人類は小河川ごとに同族集落を営んできた。せいぜい10~100kmの範囲であろう。位置変数においてこの範囲内であればさほどの努力介入なくても日常生活の中でことばはほぼ通じそうである。厳密にいえば100km離れたところでは、細かいアクセントや言い切りのことば尻、語尾が異なっているかもしれない。(日本語などのツングース語族では文末の言い切り方にその土地の特徴が伝統的に残されている可能性がある。)
しかし意思疎通には支障ない範囲であろう。
自然に共通化される範囲の担い手人口は近縁レベルでは50~100人、小河川流域レベルでは多くて1000人台だったのではないか。
また時間軸では100年単位くらいでは自然に共通化されている。家系で言えば5世代程度前の人との間ではさほど異なることばが使われることはなさそうだ。しかし数10世代時間が離れれば、ことばの違いもはっきりしてきそうだ。
2.宗教性共通化
宗教、信仰の拡大が起これば、神を表すことばや、教義、神話を伝えることばの共有が必要になる。経典が書かれればかなり固定した宗教性のある単語が登場するだろう。
言語に文字文化は必ずしも伴っているわけではない。文字文化があればより言語は安定する。
多くの信仰は代々語り継がれてきたようである。その過程で宗教性言語の共通化が生じている。
日本への漢字の伝搬は主に経典によるものであったと考えられる。高句麗僧がその主たる担い手だったのだろう。私が思うに、6世紀には高句麗僧が経典の読み方として漢字の呉音を伝搬したのではないだろうか。
一方百済人は7世紀ころ漢音を日本に伝えたのだと推測する。新羅の漢字の音は現代の朝鮮語に伝承されているのだろう。
ちなみに漢字の訓というのは自国語への翻訳読みである。この訓読は百済人が慣習的にしていたのではないだろうか。新羅ー朝鮮語にも漢字の音と訓があるが、高句麗、百済言語にもそれはあったようだ。
まとめると、私は呉音=高句麗音、漢音=百済音だと考えている。一方あまり新羅音は日本語には入ってきていない。唐音とよばれる読み方がそれに近いのかもしれない。
これらの現象は古代朝鮮半島の内戦と統一過程の歴史において日本列島への渡来が発生したことと関連しているのだろう。新羅による統一が完成してからは渡来が減少したためである。
3.商業、技術による共通化
物品や製造、生産技術の取引、伝搬に伴うものである。宗教言語とセットで共通化する場合もある。借用、外来性のことばとして認識されるものが多い。
4.部族連合体(初期国家)による共通化
これは支流小河川ごとに発達してきた部族がより大河川流域でまとまることによって、言語が共通化されることである。より大河川とは長さ100km~1000kmの範囲に及ぶものを想定する。
これは一つの文化圏を形成するし、古代の部族連合体である小国家も形成した。河川サイズと古代国家、文明の統合サイズは関連するものである。
日本の新石器時代(縄文時代)言語は不明であるが、私は例えば北上川流域単位、利根川流域単位、狩野川流域単位などというレベルである程度まとまっていたのではないかと考えている。沖縄の諸島部では島ごとにことばが発達した。川や海の沿岸流は人、物品、文化(言語=情報)の流動でもある。
5.近現代の共通語化
これはマスメディア、教育、行政府によってなされる強力な共通語化である。現代国家の中央政府が定める中央共通語が多くの国で制定されている。
地方言語は昔から伝わっている伝統的地域言語発達といったん共通語化された中央言語の分散現象からなっていると考えられよう。
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