時代のうねりの中で

 夕方、仕事の空白が30分ほど生まれたので、スターバックスでコーヒーを飲んでいたら、隣の席で、とある民放テレビ局の社員がOB訪問(って、今でもいうのかな?)に来たであろう学生に面接シート(志望動機などを記入する紙)について、アドバイスをしていた。この時期、よくある光景である。たぶん。就職活動というシステムが変わっていなければ。

 聞き耳を立てていたわけではないのだけど、申し訳ないがこちらは一人ただぼんやりとアイスコーヒーをストローでズルズルと吸っていただけなので、いやでも会話が耳に入ってくる。

 テレビ局社員の男性は、おそらく入社2〜5年目といったところか。親身に、そして懇切丁寧に、学生の文章に対してアドバイスを行っていた。このペーパーで大事にするポイントは、ここだと思うよ、とか、この業界の客観的分析の部分は限られた行数の中でムダになると思うよ、それより面接官は君という人間を知りたいわけだから、そこを軸にした方がいい、などなど、声のトーンも穏やかで知的だ。きっとイケメンなのだろう。見てないけど。彼が、学生という弱い立場の人間に対しても驕ることなくあくまで客観的に、自分のできる範囲でのベストなアドバイスを提供しているということが、隣でズルズルとカフェインを吸収するだけの装置と化している男にもひしひしと伝わってきた。

 相手の学生くんも、まっすぐだ。

 ありがとうございます、と、先輩の言葉にビビッドにそして謙虚に反応する。そして、自分がテレビ業界を目指すことになったエピソードなどを語ると、先輩は、そういったエピソードはシートの中には収まらないけれど、何か聞かれた時に出せるように、用意しておいた方がいい、と、建設的な会話がつぎつぎと繰り広げられてゆく。

 先輩は、自分がテレビ局を選んだ理由や、どんな番組が作りたいか、またそのために下積みや経験が必要だと考えていることを伝え、学生くんも目を(たぶん)キラキラと輝かせて応える。

 時計を見ると打ち合わせの時間が迫ってきたので、飲みかけのアイスコーヒーを手に、席を立った。

 いま、あらゆる批評化目線がテレビというマスメディアに対して、まるでウルトラ怪獣に浴びせられるレーザー光線のように照射されている。

 そんな中、20世紀の生んだモンスターが進む荒波の航海路を考えると、彼らのようなクリエイターは何にも負けず、とにかくピュアに面白い番組をつくっていってほしいなあ、と飲みかけのアイスコーヒーを片手にスターバックスの階段をトントンと下りたのであった。

 どんな時代も可能性は必ず個の中にあるはずだから。合格するといいな、彼。

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