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上皇后陛下の思い出

上皇・上皇后両陛下にお目にかかったのは、僕が小学校二年生のとき。まだギリギリ昭和で、お二人は皇太子・皇太子妃でいらっしゃった。

新聞社の主催する少年少女読書感想文コンクールで賞を受け、その授賞式にお二人はご臨席くださったのだけれど、幸いなことに子供たちと個別にお話しする機会を設けていただけた。

8歳の小僧とはいえ、お二人はとーーっても偉いということは知っていた。でもさ、しょせん子供なのでやっぱりあんまり分からずに両殿下と拝謁したわけです。

美智子さまとお話しして、驚嘆したというか度肝を抜かれたというか、こんなすごい人には会ったことがないとひたすらに感激して圧倒されました。

家に帰ってもうわ言のように、「皇太子妃殿下はすごかった・・」と繰り返していたくらい。。

僕が本を読む、というただそれだけのことを、この方は全身全霊で喜んでくださっている。そのことが一切の偽りなく伝わってきたんですよね。

ものすごく驚きました。なんでこの方は、どこの小僧かわからぬ子が本が好きということがそんなに嬉しいんだろう・・と怖いくらい不思議だった。

エーリッヒ・フロムの名著『愛するということ』を今読んでいるのですが、愛について、人は自身が愛されるということには熱心ではあるけれど、誰かの立場に身を置いてその誰かを無私に愛するということは難しいと書かれています。その通りだと思う。

ベクトルを自分に向けず、その人の在り方や成長をひたすらに喜び、願うということは並大抵ではできない。

美智子さまは、子供たちが本を読むということを本当に心から喜んでいらして、あらゆる子供にたくさん本を読んでほしいと切に願っていらっしゃった(と子供心に強く感じた)。

そういった心の向け方、人との関わり方をする方とは会ったことがなかったため、僕は驚嘆し圧倒されたのだと思う。

そしてその後も、そこまで無私な願いを人に向けられる人には、あまり会わない。

皇室として、日本の子供たちがよく育つのが嬉しいとかそういった狭い了見(?)ではなく、美智子さまは純粋に本がお好きで、世界中のあらゆる子供たちが本に触れて人生を豊かにしていくことを願っていらっしゃるんだろうなと思う。

あまりにも名文である、国際児童図書評議会の基調講演「子供の本を通しての平和--子供時代の読書の思い出」を読むと、そのことがひしと伝わってくる。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/ibby/koen-h10sk-newdelhi.html

願うということは、さまざまな力をもつ人間の営みだと思う。その中でも、誰かの身に自分を置いて、その誰かが善く在ることを切に願うということは稀有なる力をもつということを、美智子さまから教えていただいたように思う。

「本はお好きですか?」「どうして本がお好きなんですか?」「どんな本がお好きですか?」「これからもたくさん本を読んでくださいね」

と、子供の視線まで身をかがめて声をかけてくださり、僕のつたない受け応えに心底嬉しそうでいらしたことは30年経っても忘れられない。

平成最後のとか、令和初のなどといった狂騒には興をそそられないものの、元号が変わった、しかも自粛ムードみたいなものがない明るい変わり方をしたタイミングで、思い出として書いておきたいなと、ふと。

『皇后美智子さまのうた』(朝日新聞出版)より、ちょうどこれからの季節を詠まれた歌を一首引用。

初夏(はつなつ)の光の中に苗木植うるこの子供らに戦あらすな

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