アート.ファーマーに見るジャズの凄さの見えにくさ

ジャズというのは厄介な音楽で、何のどこが凄いのかが実にわかりにくいのです。例えばソニー.ロリンズのサキソフォン.コロッサス。ジャズの名盤10枚選べって言われたら絶対に入るアルバムですが、聴いた瞬間万人がひれ伏すというような音楽ではありません。色々なものを聴いて改めて聴きかえすと「!」ってなる感じです。1950年代のアルバムだからスケールアウトみたいなこともほとんどないし、驚異的な高速フレーズみたいなものもありません。でも凄い。技巧的に難解なことをすることが凄いことに結びつかないのです。能弁であることが必ずしも尊くないと言うところは話芸に共通するところがあります。ジャズファンと落語ファンが被りがちなのはその辺りが共通しているからかな、って感じます。で、トランペットについてはアート.ファーマーあたりにそんな感じを持ちます。早いフレーズもあまり吹かないし高い音もそんなに多用しない。スケールアウト的なこともほとんどしません。でも生涯にわたってコンスタントにアルバムは出していました。彼の若い頃のキャリアを見ると、ジジ.グライス、クインシー.ジョーンズ、ジョージ.ラッセルと言ったいわゆる知性派の鬼みたいな人の名前がずらりと並びます。特にジョージ.ラッセルとの仕事では唸らされるものが多いです。ラッセルの奇天烈な譜面をさらっと吹いてます。そんな彼が書いたエチュードがあります。スケール練習が大半で、この世代の人たちの本だとメジャー、マイナー、ホールトーン、ディミニッシュ、オーギュメントを練習する、というタイプが多いのです。マクリーンやオリヴァー.ネルソンなどもそうです。ただ、ファーマーのオーギュメントは普通のオーギュメントではなくリディアンオーギュメントになってるのがキモなのです。ここにジョージ.ラッセルの痕跡が伺えますし、実際このスケールは便利なのです。ファーマーの吹くフレーズの背後にはこうしたものが分厚く積み重なっているように思えます。

「一見凄くないように感じられて実は凄い」

これができるようになりたいものです。

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