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沈める効果に関する考察

 3年ほど前から海にお酒を沈めて、変化を観察する研究に着手しました。昨年、第一段階の結果が出て、官能評価試験及び定性試験を行い、味や香りの変化に関する考察をまとめました。既に研究助成をいただいた企業様にはご報告申し上げておりますが、この成果をどのように還元してゆくか、あるいは研究としてどのように展開するかを模索しております。一連の研究に対する評価や反応は良好で、お酒にとどまらず、その他の飲料や食品(主に醗酵や熟成系)に転用を示唆される機会に恵まれるようになってきました。

https://fb.watch/9j69O5L9lc/

 これまでも、日本の各地(特に沖縄地方)では、海にお酒を沈めて、一定期間海底や洞窟で寝かせたものを個人の楽しみとして美味しく飲むことや祭事に近隣に振る舞うことが行われてきました。海に沈めるだけではなく一般的には、車のトランクや船倉に入れておいて味が良くなる話を耳にします。この研究も、私の個人的な趣味で海没させた様々なお酒が変化する経験をもとに始まっています。
 変化と言っても、必ずしも美味しく変わってくれるだけではありません。日本酒を何本もライスビネガーにしてしまった経験もありますし、赤ワインは旨味がどこかに消えてしまったり、白ワインが2次発酵して違う味になってしまったこともあります。失敗を並べればキリがありません。沈めた場所を忘れロストしたこともしばしばあり、初期段階では海水が混入してダメになったお酒もありました。一番初めに沈めたお酒は忘れもしない「いいちこ」でした。1年ほど沈めて、引き上げて飲んだ時の感動は今でも忘れません。今となっては、いいちこもプレミアな味わいのラインナップがありますが、当時は「こ、これがいいちこかぁ?」と心が躍りました。この成功体験が原動力になり、焼酎の麦、芋、米、胡麻、黒糖、あるいは配合を変えたブレンドと幅を広げて、泡盛から日本酒へと触手を伸ばしてゆきました。次はラム、ワイン、ウォッカについては唯一、ズブロッカを沈めてみましたし、ダメもとでビールもやりました。もちろん、ウイスキーもやってみましたが、大きな変化を感じることが少なかったように記憶しています。多分、ウイスキーに関しては、変化が期待できる種(ストライクゾーン)が狭いように感じます。まぁ今となっては、その変化するであろう種さえも想像がつくまでに経験を積んでおりますので、興味がある人は私の予測を元にトライしてみてください(ハズレたらごめんなさいね)。

共同研究者:合志明倫氏

 この20年ほどの試行錯誤で得た知見がまさか自分の研究として陽の目を見るとは思いませんでした。実は、この個人的な趣味が研究として動き出したのは、他ならぬキーマンが存在したからなのです。多分、私がこの話を企業にしたところで、面白いと感じてくれる会話はできるかも知れませんが、研究費を助成してくれるまでの話題は提供できなかったと感じています。彼の人間力というかアスリートとしてのカリスマ性が可能にしたのだと考えています。

洞窟から引き出されたこれまでに海没させた泡盛

 始まりは、宮古島の多良川酒造の泡盛の沈酒による付加価値向上でした。
近年、泡盛は全体的に売り上げが低迷していて、数量を販売することが難しい状況になっているそうです。そうなるとターゲットを絞って、富裕層に対する高付加の商品を販売する戦略になります。実際に、多良川酒造ではMY17株という宮古島産原生酵母を使った泡盛もつくっている研究熱心な会社です。最近では、イムゲーやラムの製造にも着手してラインナップを増やし続けております。正直に申し上げると、この多良川酒造の「無垢」という泡盛を地元の料理と一緒に飲んだ際に、今までに飲んだことのある泡盛にはない甘味を感じて、呑兵衛(ってほど量は飲みませんが)研究者の酒飲みハートに火が灯ったのでした。
 半年ごとに海没させる本数を増やしてゆき、2回目を入れたところで研究を含めた行動を制限される事態が起きました。なんとか3回目までを投入しましたが、ここまで自由が制限されてしまうと思うように研究を進めることができなくなってしまいます。よって、一区切りをつけるために沈めた泡盛を全て引き揚げ、沖縄の工業試験センターで成分分析を行い、冒頭のような結論を、一旦ではありますが求めたのです。

約150本の研究サンプルを引き揚げる

 そしてこの研究は、大学のキャンパスがある清水港で次の展開を迎えることにしました。その続きは、その成果がみられた次の機会にお知らせいたします。

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