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マーケティング視点で見たスポーツビジネス。

 スポーツビジネスの世界に初めて足を踏み入れたのはハタチの時。2000年のシドニーオリンピック・パラリンピックでした。大学野球部を怪我で途中退部し、大学の体育局を手伝っていた時に野球連盟の方とのご縁でシドニーに派遣されることになりました。

 それまでスポーツは「やるもの」だと思って生きてきましたが、そこでスポーツビジネスという世界を知り「見るスポーツ」と「やるスポーツ」の間にある「運営するスポーツ」にのめり込むことになります。

 シドニーオリンピック・パラリンピックから21年。ラグビーワールドカップ2019日本大会や東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に組織委員会スタッフとして名を連ね、スポーツビジネスの様々な側面に触れてきました。

 スポーツと言えどもビジネスと名がつくからにはそれは仕事で、世間一般に思われているような華やかな部分だけではありません。総務や法務、人事のようなスポーツの現場と全く関わらないバックオフィスに支えられ、会場や輸送や飲食、清掃、チケット販売などのスポーツと間接的に関わる運営部隊が場所を整備し、営業の最前線であるグラウンド上の選手、チーム、審判、データ、演出などでファンの皆様に楽しんでいただきます。

 その中で僕が主に担当してきたのはマーケティングです。マーケティングと言うのは聞いたことがない人はいないと思いますが、それが実際何なのかはそれぞれ理解が違う雲のようなものです。会社によってもマーケティングは経営企画にぶら下がっていたり、データを分析するマーケティング部があったり、営業を支援するマーケティングをしていたり、商品開発をマーケティングと呼んだり、スポーツではスポンサーさんを見つけて権利を買ってもらうことを指したりもします。マーケティングというのは市場を定義して販売しやすくする活動全般のことを指すので、こういう幅があるのは仕方ありません。僕自身は顧客の求めているものを効率的・効果的に用意するのがマーケティングだと思ってやってきました。

 ラグビーワールドカップでは大会の認知が全く高まらない中で、2002年のサッカーワールドの1.3倍のチケットを売らなくてはならないという無理難題がありました。これは日韓共催だったため、サッカーワールドカップの日本開催のチケット販売は約140万枚。対してラグビーワールドカップは180万枚〜200万枚を想定しており、年間の観戦者数が20倍違う※サッカーとラグビーの市場をどう眺めてもポジティブな数字は見当たりませんでした。

※2002年当時のサッカーの集客力はJ1・J2など含めて年間約1000万人。それに対してラグビーは2015年時点で年間約50万人と母数に圧倒的差がありました。中身も企業の応援動員が半数を占めており、積み上げではなく、どんな人に来てもらいたいか、という視点で戦略を練ることにしました。

 そういったギャップをどう解決していくかにマーケティングの力を適用していきました。今ではマーケターがチームやリーグを引っ張っている例も多いですが、スポーツビジネスに関わり始めた時はまだそんなに多くもなく、そもそもスポーツに関連する仕事を好きでやらせてやっているんだから、と親企業の広告や福利厚生的な雰囲気がまだありました。それを先人たちが多くのプロスポーツリーグを生み出し、チームを活性化してきたおかげで、ラグビーという2回の人気の後、低迷していたスポーツを多くのファンの方に再度受け入れていただく土壌ができていました。

 スポーツは同じように見えますが、ラグビーで入る点数が定期的に変わっているように、ルールがファインチューニングされたり、オリンピックスポーツになるためにより見え方見せ方を変えたり進化しています。スポーツが変わるなら当然運営方法も変えて行かなくてはなりません。マーケティングとは顧客の求めるものを効率的効果的に用意することと書きましたが、それは常に顧客から始まります。顧客はチケットを買ってくれるファンの方々、テレビで観てくださる方々、そのテレビで放送してくださる放送事業者、スポンサードしていただける各企業の方々で成り立っています。彼ら彼女らがそれぞれ何を求めていて、時代の流れを読んでどうかいぜんしていくか、そのマーケティング力が今のスポーツビジネスでは求められています。マーケティングは経営に近いところにおいて、スポンサー関係だけでなく、放送、チケットも網羅した組織体にしているチーム、リーグが力を発揮している例が今は多く、スポーツそのものだけでなく、組織や運営、バックオフィスがプロでないと結果が残せないフェーズに入ってきています。

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