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オリンピック・パラリンピック&ラグビーワールドカップ組織委員会徹底比較。

 2021年も年末に差し掛かってきました。今年を振り返る企画で東京オリンピック・パラリンピックでの日本代表選手の活躍を再び目にする機会も増えました。
 僕自身はと言うとスポーツビジネスを続けていますが、7年に亘る組織委員会での仕事もひとつの区切りを迎えました。そこで東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下オリパラ)とラグビーワールドカップ2019日本大会(以下RWC)両方の組織委員会を経験し、その中で両組織でプレーヤーもマネージャーも務めた唯一の人間ということで組織としての違いを記したいと思います。

ビジネスモデル

 そもそもオリパラとRWCはビジネスモデルが違います。スポンサーのお金やグッズ販売量が収入になり国際団体からも金銭的なサポートがあるオリパラと違って、逆にRWCは国際統括団体に保証料を納めなくてはなりません。スポンサーやグッズ、放映権料も日本大会までは組織委員会側には全く入りませんでした。

職員数

 オリパラが7000人に対してRWCは350人。20倍の差です。この20倍という数字は予算でも同じような比較規模となり、大会組織を比較する上でのひとつのベンチマークになります。

組織体

 2つの組織委員会は組織として大きく成り立ちが違いました。
まずRWC2019は札幌から大分まで日本全国で行われるため、日本の省庁経験者メンバーが多く、組織体、各種書類も省庁をベースに作られました。
オリパラの場合は東京都中心に行われるので東京都庁の組織体をモデルに作られました。

 オリパラは55競技と数も多いですが、逆にRWCはラグビーだけの単一競技と言っても職員数が少なくその分一人一人の裁量が広くなります。国際オリンピック委員会や国際パラリンピック委員会が決めたFAという単位で仕事を進めていくのですが、このFA=Functional Area(各業務的機能範囲)をオリパラは複数人で一つを担当する、逆にRWCは複数FAを一人が担当していました。

 全体的な組織としての感想は、オリパラは関わる人数も多く組織としてしっかりとしていて属人的にならないよう、リスクヘッジも含めた組織体として機能していました。誰かが休んでも組織力でカバーできたり、誰かが間違ったことをやってもそれを気付き修正できるよう何層にもチェック機能が働いています。

   RWCは人数が少ない故の機動性が確保されていました。そこは若手にはチャンスがありました。逆に言うとマネージャークラスだと人の経験や才能に頼るところも多くあり、国際スポーツ大会の運営経験やそのFAのプロであれば八面六臂の活躍ができました。逆に私の部署では上司が5年で10名以上変わったことに表れるように人に頼るが故に人を変えないと組織として動かなかったという側面も残念ながらありました。隣の局や部署の人をとりあえずスライドさせてその間にリクルーティングをすることも何度も繰り返され、チーム内の士気が下がるのをどう食い止めてモチベーションを上げるかには苦心しました。


 属する職員数も違うので役職はオリパラ組織委員会では上から役員、局長、部長、課長、係長、主任とありましたが、RWC組織委では役員、局長、部長、副部長、主任が主となるタイトルでした。RWCの部長職がオリパラの課長職。RWCの副部長職がオリパラの係長と同じ責任、給料レンジでした。

 どちらの組織も一長一短がありますが、個人的にはRWCが先だったことにより広い裁量をいただき、幅広い国際スポーツ大会運営の仕事をできたことにより、オリパラにフィットするのが非常に簡単でした。

 これは30名のRWC組織委員会メンバーが後にオリパラの組織委員会に参加することになりますが、短い期間でもしっかり活躍していましたので、皆見ている景色が広かったのだと思います。僕自身も入って1ヶ月で大きなプロジェクトを2本任せてもらいましたが、RWCの経験がなければ半年はかかるだろうなと思いました。

官民連携事業

 国際スポーツ大会の組織委員会は官民連携事業です。これは両組織とも変わりません。日本政府から、省庁から、地方自治体から、市区町村から、スポンサー企業から、そうでない一般の企業から、そして私のようなフリーランスの職員が力を合わせて仕事を進める特異な組織です。共通言語やDNAが違うメンバーで意識を合わせていくのは難解な作業ではありますが、視野も広がりますし、何より終わった後が財産となります。

 スポーツビジネスだけではないですが情報、相場観、その時代の空気感、この3つが企業の血液です。その源流である各業界の仲間が増えたことが今後、日本の経済活動に必ずや影響を与えるネットワークになるだろうと想像します。

プロ人材の獲得

 私個人の感想として自分が両方の組織に担当としても管理職としてもフィットできたのはスタートアップ企業、上場企業、外資系企業など幅広い仕事を経験してきたからだと思います。

 私が社会に出た20年前にはまだ終身雇用信仰が根強かったので家族から転職を反対されたり、中身でなく転職回数で判断される時代でした。ところがそれから2010年頃になると同級生も終身雇用制度を維持している大企業を飛び出し転職することが増え、日本でも幅広い働き方の選択肢が増えた気がしました。

 実はこの転職というのが国際スポーツ運営の基幹を担っています。欧米で言うと官民を数年単位で転職するリボルビングドア的な働き方が一般的で、日本のメンバーシップ型ではない専門で勝負するジョブ型の求人が多いです。まさに国際大会の運営はジョブ型の最たるところで、競技運営、警備、飲食、清掃、宿泊、輸送など、その道のプロでないと出来ないことが多々あります。なので欧米での国際大会ではこの指止まれ、で優秀な人材が初期から集まります。翻って日本において数年という雇用期限がある中で優秀な外部人材をベストなタイミングで得るのはとてもハードです。そこで企業からの出向者に頼ることになります。彼ら彼女らもプロ人材ですが、透明性を出す為に所属元が絡む仕事はできないというルールがありそこにおいては100%の力を発揮できない場合もあります。そういう意味でこれまで日本でスポーツの国際大会を行うのは、言語の壁より、人材の壁で難しさがありました。

 しかしながら転職やプロ人材市場が活発化する今後、日本においてより国際スポーツ大会運営はやり易くなると思います。あとは省庁や自治体がもっと柔軟な雇用制度に変わっていけばもっと働き易く、官民のシナジーが生まれる労働環境になり、今の弱みをチャンスに変えられるゲームチェンジャーになり得ると思います。

 日本はスポーツビジネスだけではなく全体的に、民主主義を実践し、人口もまだまだ相当数あり、世代の転換期を迎え、古いシステムを変えようという気運にも恵まれたチャンスを持つ国であると思います。バトンを渡されている世代としては次にそのバトンを渡すべく、社会の全体像を日々インプットしつつ、アウトプットを出していきます。

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