現代詩作品1「無季」

無季

洋々と風の中を歩き回ると
短く刈った髪の毛の
一本一本が
松の尖った葉のように
空に向いて
泣き叫ぶ。
自由はここにはないと。

あなたの足跡を追って
互いの距離を詰めてきたのに
もう何十年も前に
私の前を去ってから
よく耳にする
ブラームスの交響曲第4番。
苦し紛れの言葉が
パッサカリアの形式に流れ込む

もういいではないか、この辺で。

私の寿命は
体内で光を放つ
ひとつの半月によって
決められていたのだ。
背を伸ばして
もう少しだけ
その発光するスポンジを
見つめていたいと思う。

ああ、くだらない理屈で蠢いている
大地よ。
そろそろ自分の存在を忘れよ。
形に拘ることなく
防戦一方の姿勢となるにしても
まだ、ほんのちょっと
時間が余っているのだから。
大地よ。
歌え。
コンソメスープの海に
憧れることはやめて
素直に
あなたの傍にいたいと
どうして言えぬのだ。

もうすぐ紅葉の季節が来て
たちまち広葉樹の葉は落ちる
凡庸な魂はいつでも
その移ろいの悲しさを
抱いて
彷徨う。
それでよかったと
どうして言えないのか。

洋々と風の中を歩き回ると
短く刈った髪の毛の
一本一本が
松の尖った葉のように
空に向いて
泣き叫ぶ。
自由はここにはないと。
自由はここにはないと。

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