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コーヒー推しのお店でも美味しい紅茶は飲みたい……に終止符を打った件

カップに注がれる琥珀色の液体。立ち登る湯気。

ゆっくりと口に運ぶ。含んだときに広がる爽やかな渋みと鼻に抜ける柔らかな香り。

ハタチの頃に初めて立ち寄ったDという紅茶専門店で味わった時の感動は、一生忘れられないものになりました。ここでいう「紅茶専門店」とは、見た目はカフェと変わりませんが、提供している飲み物が(ほぼ)紅茶であるお店です。この体験以来、紅茶党を自称し続けています。

そんな僕ですが、D店のような専門店と謳ってなくても、美味しい紅茶が飲めるお店があることをずっと期待してきました。でも、これはもう無理な話であると終止符を打つことにしました。

僕がなぜ紅茶党になったのか。そして、どういった理由で終止符を打つことにしたのか。そのストーリーを綴りたいと思います。

遺伝しなかった味覚

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僕の両親は揃ってコーヒー党です。朝食を抜くことはあっても、コーヒーを飲まないことには1日が始まらないようです。そんな両親の姿を見て育ったわけですが、幸か不幸か、その味覚は遺伝しなかったみたいです。僕はコーヒーが飲めないのです。

D店で初めて紅茶を飲んだ体験が感動的なものになった。それには、単純に美味しかったから、というだけではなく、コーヒーが飲めなかったということも背景にあったのです。

「難民」体験

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それからもう1点。紅茶やコーヒーのように嗜好品として楽しむ飲み物の「難民」だった体験があったからです。

僕が子供の頃は、コーヒーのように楽しめる飲み物の選択肢がまだ少ない時代でした。今でこそ、コンビニも出現しましたし、カフェなどでも実に様々な飲み物を選ぶことができるようになりました。

忘れられない出来事があります。
小学生の頃でした。子供会か何かのイベントに参加していたときのことです。

会の途中で、保護者から缶ジュースの差し入れがありました。

「みんな、取りにおいで〜!」

呼び声に引かれ、僕は内心ワクワクしながら差し入れが入った箱に向かいました。中を覗くと、いろんな色の缶が目に飛び込んできました。ファンタでした。その瞬間、僕のテンションはダダ下がりします。僕はコーヒーだけでなく、炭酸も飲めなかったからです……。

仕方なく手に取ったのは唯一、炭酸入りではなかった烏龍茶。

あの時の烏龍茶の不味さは忘れられません。

こんな僕の「難民」体験が、美味しい紅茶との出会いを、衝撃的な出来事にしてくれました。思い描いていた通りの理想の恋人に出会ったようなものでした。

紅茶専門店が少ない理由

ところで、「紅茶の専門店なんてあるんだ」という印象を持たれた方も多いのではないでしょうか。

実際、その通りで、詳しくは後述しますが、紅茶専門店と呼べるお店は本当に少ないです。街中に喫茶店やカフェは数え切れないほどあるのに。提供しているメインの飲み物はコーヒーであるというお店が(僕の肌感覚で)99パーセントを占めているのが実情です。

そんな流れから、紅茶党であっても、コーヒーがメインのお店を利用することのほうが多いことになります。そんな時はラテやオレを注文します。大人になってミルクが入っていればコーヒーでも飲めるようになってきたのもあって。というのも、コーヒーがメインのお店では美味しいと思える紅茶が飲めないという経験則があるからです。

裏切られ続けた期待

そんなコーヒー推しのお店でも、美味しい紅茶が飲めることもあるに違いない。

一方で僕は、そんな期待をずっと抱き続けてきました。「ここは!」と思えるお店があれば、思い切って紅茶を注文します。でも、必ず残念な結果に終わってきました。

ここにきて、ようやくコーヒーが推しのお店で美味しい紅茶も楽しめることを期待するというのは、動物園で魚の展示も楽しめることを期待するようなものだったと気づいたのです。同じ「飼育」であっても、檻を使ってのそれと、水槽を使ってのそれでは、全くノウハウが違うように。

同じ嗜好品としての飲み物であっても、コーヒーと紅茶とでは、そのノウハウが全く違うのですね。やっぱり。

これが、僕が終止符を打った理由です。

振り返れば20年以上、この期待を抱き続けてきたことになります。

紅茶専門店が増えない理由

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紅茶専門店をされている方から伺ったことですが、紅茶専門店が少ないのは、一言で言えば、ビジネスにしにくい、というのが大きいようです。

まず言えるのはコーヒーのほうが分かり易い飲み物だからです。つまり、より多くの方に受け入れてもらい易いということが言えます。確かにコーヒーは味も香りも、何というか、ダイナミックさがありますよね。

対して紅茶のそれは、繊細さに特徴がありり、ダイナミックさという点では弱い。それだけに、分かり易さでは不利なところがあります。コーヒーに比べると。ビジネスにし易いのは、当然、分かり易いほうでしょう。多くの人に受け入れられるもののほうが有利です。

多くの人が受け入れるので、コーヒーの需要が広がる。それがコーヒー推しのお店が増えることにつながり、更にコーヒー好きが増えるという好循環が起きています。

コーヒー好きが飲みたい味

その中には、自分もコーヒー推しのお店を始めようと考える方も出てくるわけです。そうして始まったお店の紅茶の味を決める人は、そんな、コーヒーのダイナミックさと向き合う形で味覚やセンスを磨いてきた方々でしょう。良くも悪くも。

そのため、結局は「コーヒー好きが飲みたい紅茶」に着地してしまうのです。だから、紅茶党に嬉しい味とは違うものになってしまう。これが結論でした。

まとめ

紅茶党の僕が、コーヒー推しのカフェでも、美味しく紅茶が飲めることを期待してきたけど、その期待に終止符を打ったということについてでした。

もし近くに紅茶専門店を見つけたら、ぜひ一度、足を運んでみてください。

そこには、紅茶の繊細さを知り尽くしたプロが待っています。そこで紅茶を飲んで「コーヒーしか飲んでこなかったけど、紅茶も選択肢に加わった」と言ってもらえたら、それだけでも僕としては嬉しいのです。

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