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影を曳く

朝、起きたら太陽光を摂取する為にカーテンを全開にする。
しばらくするとセロトニンが分泌されている感覚が脳内を駆け巡り、夜に蓄積した虚無を恍惚感で上書きし、焦燥や不安といった現代を生きる上でまるで役に立たない感情も一掃される。その快感を報酬とする為に布団から這い出るのだけど、この時期になると起床時刻に日が出ていない事が多く、憂鬱になる。しかも寒い。

寝起きの布団の引力は凄まじく、時空が乱れてるのでは?と錯覚する程の力がこの積層された布の塊に宿っている。意思が折れ再度布団に取り込まれると再起動した脳に不具合が生じたのかと錯覚する程に時間が経過している。極めて危険だ。強烈な引力のせいで時すらも捻じ曲げている。
布団の重力の井戸から脱出し、前述のセロトニンボーナスタイムを得て徐々に起動し始める心身の状態がいつも通りに活動したことを確認できたら窓も全開にする。まだ重力を振り切れないで布団の底に沈んでいる妻を起こさないよう、寝室の窓は最後に開ける。(寒いと怒られる。)

窓から入るこの時期の朝の静謐な空気は最高だ。淀んだ肺の中の呼気が全て交換される快感が増す。寒すぎると情緒のないただの痛みとなるのでこれくらいの時期が丁度いい。季節の変化と共に影の曳き方が変わるので、目に入る情景をいい感じに変えてくれる。ただのなんてことのない人工物に時間の変化を与え表情がつき、差し込む光の変化に自転の傾きを感じる。

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OLYMPUS E-M5/M.ZUIKO DIGITAL 12mm F2.0

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