12. 声 ききとりから        主婦 四十歳

 わたしは阿寒の鶴居村の出身です。

 ここにはシャモがたくさんいて、ウタリはわたしの家の一族だけでした。

 小学校時代は、日常の中でずい分といろんなことがありましたね。

 高等科(現在の中学)にはいると、いろんな学校から生徒が集まってくるもんですから、もう、あれこれ陰口やら、まともにいわれたりで‥‥。

 あるとき、休みの時間だったと思うけど、いきなりボールをぶつけられたんですよ。それで、
「どうして、そんなことをするの。」
っていったんです。わたしのところにとんでくるボールでもないし、わたしは、そのボールの運動にはいってもいないんだから。

 ところが、
「なに、おまえなんかアイヌでないか。」
のひと言でかたづけられたんです。わたしはそのときくやしかったもんだから、
「どうして、そんなことするんですか。」
と、またいったんです。そしたらいきなり、
「おまえなんかアイヌでないか、もんくいうな。」
って、ホッペタを平手打ちされたんです。

 わたしは、非常にくやしいのと、腹がたって、腹がたって‥‥まあ、その日の授業だけはすませましたが、つぎの日から学校を休んでしまったんです。

 でもね、そのとき、「N」という先生がいて、ものすごくきびしい先生であったんです。その先生が、わたしが休んだつぎの日、高等科の生徒全員を集めて、
「アイヌだからって、君たちは差別したり、どこも特別に扱ったりりしてはならないのだ。人間として、ちっともかわりないんだ。そういうことを絶対にしてはならない。」
と、いってくれたそうです。このことは、わたしが休んでいたものですから、ずっと後になって知ったんです。

 この先生は、それから少しして、突然退職してしまったのですが、話によると、考え方がおかしいといって憲兵隊に連れていかれたということです。

 今だに生きているのか死んでいるのかわかりませんが、
「アイヌだからって、差別してはならないのだ。」
という、その先生のことばが、わたしに生きる勇気を与えてくれた、としみじみ感じています。
「人間は平等なんだ」と教える先生が、まわりからにらまれた時代ですから、差別はころがるほどあったということなんでしょうね。


*** 1 今日まで生きてきて

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