ベテラン菓子職人がつくりだす、 繊細で愛らしい冬の使者
北上市 いなば菓子舗「白鳥クッキー」
店主の稲葉重利さんはアイデアマン。20歳で今の場所に自分の店を構えて以来60年あまり、いろいろな菓子づくりに挑戦してきました。
当時の江釣子村(現北上市)から特産品を開発してほしいと依頼された時につくったのは、豊富な湧水を利用して養殖が行われていたアメリカナマズの焼き菓子。古墳群にちなみ埴輪まんじゅうをつくったこともあるそうで、ユニークさでも群を抜いていたのだろうと想像できます。
「なんでも新しいことに挑戦したい性分だし、見たものはすぐにつくってみたくなるんだ。昔、盛岡の物産展で子供から『ペンギンのお菓子をつくって』と言われたときは文房具売り場に行ってね、ペンギンの絵を探してその場でつくったこともある。独立したときから、和菓子づくりの傍らパンやクリスマスケーキのような生菓子もつくっていた。これは誰に教えてもらったわけもない、自分で見て考えてつくってきたんだ」。
そんな稲葉さんの評判を聞いた展勝地レストハウスから頼まれて考案したのが、北上市が飛来地であることにちなんだ「白鳥クッキー」なのでした。
材料は薄力粉に卵やバター、砂糖など。薄力粉はミキサーで粘りを出し、絞り出し袋に入れられるコシのある生地に仕上げます。天板を並べたら作業は一気呵成。ひと絞り目は白鳥の尻尾、続いて2絞り、3絞り、そして4つ絞って胴体が出来上がります。そのままスルリと首のカーブを描いたらキュッと力を込めて丸い頭を、そして力を抜くと細いくちばしが現れます。最後にココア生地で目をチョンと入れるのは、息子の道利さんの役目。その間も一定のスピードとテンションで、天板の上に次々にクッキー生地を絞り出していく稲葉さん、「白鳥の姿は頭の中にすっかり入っているんだ」と手元に迷いはありません。多いときは1回に120~130羽ほども絞ったことがあるそうです。
▲かわいいココアの目が入りました。
それにしても絞り袋でこの形を作るとは、名人技
白鳥は、冬の訪れと終わりを告げる鳥。そんな季節の使者を模したクッキーらしく、パッケージが手紙のような意匠になっているのもなんだかかわいい。表の切手のイラストは稲葉さん作、裏には道利さんと妻のリワさんの3人で考えたという詩が記されています。
北へ向かって 白鳥の旅立つころ
展勝地の 桜のつぼみもふくらみ
かれんなかたくりの 花咲く北上路(一部抜粋)
絵心はおろか詩人の心までも持ち合わせたベテラン菓子職人が、クッキー生地でのびのびと描き出した美しい冬の使者。サクサクと軽い食感と豊かなバターの香りが、繊細で愛らしい形をさらに引き立てています。
※2014年9月取材時の情報
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