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紅葉から、枯れ木を過ぎて、花が咲く。

「私たち、別れよう」

彼女の紅葉からそう告げられたのは、秋の夕暮れ時だった。
それまで、いつも通り近所の公園でたわいもない話をしながら散歩をしていた。
そろそろお腹も空いたし、俺の家で何か食べようかと言おうとした時だった。

突然の彼女からの言葉に、何も言葉が出てこない。
何かの聞き間違いだろうと、

「、、、え?何?」と精一杯の言葉を返した。

するとまた彼女から、
「好きな人ができたの。だから別れましょう」

あまりにも淡々とした口調だった。
頭が追いつかない。

***
紅葉と出会ったのは今から一年前。
ちょうど色鮮やかな紅葉の季節。

住宅街の中にあるこの小さな公園で出会った。

彼女はいつもホットコーヒーを飲んでいた。
いつも虚な目をしている彼女のことが気になった。

何度か会うとお互い顔見知りになり、
最初は挨拶程度だったのが、いつしか少しずつ会話するようになった。

そして、3回目のデートを経て、ついに付き合うことができた。あれはクリスマスだった。

ケーキとチキンを買って2人で食べたっけ。


「これ、鍵。返すね。」

走馬燈のように今までのことをぐるぐる思い出していたら彼女の言葉で一気に現実に引き戻された。

「あ、あぁ、、、」

気持ちの整理がつかず言われるがまま鍵を受け取ってしまった。

彼女は舞降る紅葉たちの中に消えていった。


ーそれから数年後。

「ねぇ冬馬。結婚式のウエディングドレス、どういうのがいいと思う??」

「んー春美はなんでも似合うから、着たいの着ればいいよ」

「なによそれ!大事な人生の晴れ舞台なのよ?
ちょっとは真面目に考えなさいよ!」

ショウウィンドウに飾ってあるウエディングドレスを横目に、彼女はぷくーっと膨れ顔をした。

 
春美は会社の後輩だった。
新卒で入った春美の教育係を任され、会社では彼女と過ごす時間が多かった。

それから一年経った頃、彼女から告白された。
彼女は若くて、自分とは8歳も離れている。
最初は歳が離れていることに引け目を感じ、断っていたが、彼女の猛烈アタックにとうとう降参した。

「あっ、ここの公園、冬馬の思い出の場所なんだよね?」

ちょうど紅葉と過ごしたあの公園の前を歩いていた。

「あぁ、そうだね。もう随分来てなかったなぁ。ちょっと寄っていい?」

うん、と春美は快く返事をした。

2人でブランコに乗った。

そういえば紅葉ともブランコに乗りながらよく話してたなぁ。懐かしいな。

***
「ねぇ、タイムカプセル埋めようよ」

唐突に紅葉がそう言った。

「え?何急に。」

「だから!未来の自分に手紙を書くの。私一度でいいからやってみたかったんだよね〜」

ね!と強引に紙とペンを渡された。
彼女はやると決めたら最後まで曲げないタイプだ。

仕方なく言われるがままペンを走らせる。
未来の自分にねぇ、、。急にそんなこと言われても何も思いつかない。

「よし!書けた。ここに埋めよう」

「え、こんな公共の場所に勝手に埋めちゃだめなんじゃ、、」

「へーきへーき。バレやしないって。」

全くもう。結婚したら絶対尻に敷かれるんだろうな。
そんなことを思いながら、紅葉のなる木の下に手紙を埋めた。


、、、思い出した。もしかしたらまだ、、、。

ブランコを降り、紅葉の木の下まで走り、
勢いよく手で枯れ葉をどけて土を掘った。

「えっちょっと何してんの??」
驚いた春美が駆け寄る。

カンッ。何かが手に当たった。

「、、、あった。」

タイムカプセルだ。間違いなく、あの日紅葉と埋めたものだ。

パカっと蓋を開けた。

するとそこに、「冬馬へ」と書かれた手紙が入っていた。恐る恐る、手紙を開いた。

冬馬へ。

この手紙を読んでいる頃には、私はもうこの世にはいないと思います。

私ね、生まれつき体が弱くてね。
あと数ヶ月しか生きられないってお医者様から言われてたんだ。

きっと私は冬馬に無理やり理由をつけて、
別れ話をしたんじゃないかな。

ごめんね。でもこうでもしないと、冬馬悲しむかなと思ってさ。

冬馬との日々はすごく楽しかったよ。
ありがとう。元気でね。

「、、、、、。」

「冬馬、大丈夫?」

心配そうに春美が俺の顔を見つめる。

「あぁ、、、うん、、大丈夫だよ」

泣きそうになるのを堪えて、上を向いた。

「さぁ、帰ろうか」


***

「さあ、お次は花嫁からのブーケトスです!!」

ふわり。花束が空を舞う。

「やったー!!これで私も独身卒業よ!!」
春美の友達の夏美が誇らしげにブーケを振りかざし自慢している。

「もう、夏美ったら。」
春美もそれを見ておかしくて笑っている。

俺の隣には、綺麗な純白のウェディングドレスを着た春美が横に立っている。

「タキシード、似合ってるよ」

「春美もドレスすっごい似合ってるよ。綺麗だ。」

「やっと褒めてくれたぁ。遅いよ言うの。」

そう言いながら彼女はぷくーっと膨れ顔をした。

「あ、桜の花びらついてるよ」

そう言って、春美が頭についていた花びらを取ってくれた。

秋から冬。そして春へ。
季節は目まぐるしく移り変わってゆく。



はい!シロクマ文芸部のお題、「紅葉から」を書いてみました!こんな物語が生まれるとは最初は思いませんでした。笑

ありきたりなお話でオチも微妙ですけど、、お手柔らかに。
 
小牧さん、お題ありがとうございます。

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