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全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案についての調査①~子ども・子育て支援の拡充~(政治家女子48党浜田聡参議院議員のお手伝い)

厚生労働省から今国会に提出された全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案について、調べた限りから所感を述べていきたいと思います。
 
今回の改正案は多厚労省が発表した概要にもあるように、多岐に渡ります。大きく分けると以下の4点になります。全世代対応というだけあり、係る分野が異なるため、今回はA(こども・子育て支援の拡充)について考察してまいります。
 
A こども・子育て支援の拡充
B 高齢者医療を全世代で公平に支え合うための高齢者医療制度の見直し
C 医療保険制度の基盤強化等
D 医療・介護の連携機能及び提供体制等の基盤強化

今回のこども・子育て支援の拡充の要旨は二つです。一つは「出産育児一時金の支給額引き上げ」、二つ目は「産前産後期間における国民健康保険料(税)を免除する」というものです。この二点に関連する法律は多岐に渡るため、一つ一つの解説は省きますが、財源や仕組みについてみていきたいと思います。

①出産育児一時金とは

出産育児一時金とは、子どもを出産したときに加入している被保険者・被扶養者が公的医療保険制度から受け取ることができる一時金のことです。基本的に、出産は病気やケガには含まれないため、健康保険の適用対象外となっており、分娩費用や出産にともなう入院費などは全額自己負担になっています。
出産育児一時金の目的は、出産自体の費用や出産前後の健診費用等の経済的負担の軽減を図ることにあります。余談ですが、紛らわしいものとして「出産手当金」というものがありますが、これは健康保険の被保険者が出産のため会社を休んだために事業主から報酬が受けられない場合に支給される手当金にあたるため、別物になります。
 出産育児一時金の財源は、現行では地方自治体の一般会計繰入・医療保険料(税)・国庫支出金で構成されています。また、一般会計繰入は地方交付税措置として捻出されています。健康保険分としては74歳以下が加入する健康保険を財源としています。東京都小平市の資料がわかりやすいため、下記を参照ください。

 今回の法改正では、大きく報道されているように、支給額の引き上げに伴い、後期高齢者の医療費負担を引き上げる事で財源を確保するというものです。後期高齢者医療制度の加入者が所得などに応じて支払う保険料の上限額を令和6年度と令和7年度に段階的に引き上げられることになります。

②なぜ支給額の引き上げをおこなうか

 今回の法改正は岸田政権の掲げる「こどもまんなか社会」の実現を目指すものである。この制度は平成6(1994)年に創設され、これまでも出産育児一時金は段階的に引き上げられてきており、その変遷は以下の通りです。

厚生労働省保険局 第155回社会保障審議会医療保険部会「出産育児一時金について」より 

周知ではありますが、我が国における少子化が長年の課題であり、対策の一環であることは論に違いませんが、そもそも費用負担の軽減が本質的に少子化対策として成果を出せるものなのかは疑問に感じるところがあります。そのあたりは後述させていただきます。
 第155回社会保障審議会医療保険部会(厚労省保険局)での資料(今後出てく(資料P〇)は上記の資料になります)において、出産育児一時金の支給増額の背景について触れられており、コロナ禍による出生数が将来人口推計よりも7年早く減少していることを挙げています(資料P4)。 また出産費用が年々増加していることも挙げられており(資料P7)、確かに経済的支援として一見すれば大きな住民サービスの向上につながると考えることもできます。

③出産育児一時金の問題点と課題

 引き続き、第155回社会保障審議会医療保険部会(厚労省保険局)での資料を見ていきます。次の点に着目します。出産費用は全国でバラツキがあり、最大値(東京都)と最小値(鳥取県)で約20万円強の差額があります。出産育児一時金は一律給付の制度であるため地域によって恩恵差が生じます(資料P10)。
現行の制度で費用の安い都道府県で出産する傾向もみられ、首都圏(一都三県)からの流出率は目立つものがあります。鳥取県の流入率は唯一30%台であり出産費用を抑えようとしている国民の様子がうかがえます(資料P15)。推察ではありますが、負担格差の是正も目的に含まれているのではと考ええますが、このような一律の仕組みは不公平感を生む、もしくは流出の加速を生み出す要因になるのではないかと危惧します。私が当事者であれば給付額の引き上げとは関係なく費用負担の安い病院を選ぶことでしょう。

東京財団政策研究所 出産育児一時金の引き上げを巡る論点 10.17. 2022 より図を引用

次に、財源の使途についても指摘します。今回の出産育児一時金の引き上げに伴い、財源確保のために後期高齢者の医療保険の引き上げで財源の確保を目指しております。いわば増税です。令和5年3月31日の政府が発表する少子化対策の「たたき台」に出産費用の保険適用を明記するとの報道がなされていますが、現行の制度では出産に係る費用は保険適用外です。「後期高齢者の負担を増大させることで全世代に責任を負ってもらう」としていますが、本来保険適用外である現行制度のもとでは、本来の医療保険制度の在り方として後期高齢者の経済的負担を増やす事に対していささか疑問に感じます。

④本当に出生率が増えるのか

 出産育児一時金の制度が平成6年に創設されてからの出生率について、厚労省が発表している令和3年度 出生に関する統計の概況から見ていきたいと思います。

厚生労働省 令和3年度 出生に関する統計の概況 人口動態統計特殊報告より

グラフを見れば一目瞭然であると思いますが、出生数・出生率ともに減少傾向にあり、回復傾向にはありません。

厚生労働省 令和3年度 出生に関する統計の概況 人口動態統計特殊報告より

特殊合計出生率も大きく回復したとは言えず、歯止めをかけたといえなくもありませんが、少子化対策に効果があったのかは非常に疑問です。また、別の観点からも指摘しますが、人工妊娠中絶の割合が微増しています。要件を満たせば出産育児一時金は給付されることから、望まない出産を防ぐことにはつながっていますが、出生数や出生率だけを勘案した場合は足かせとなっています。この点については倫理的観点から非常に難しい問題であるため、数字のみを見た観点のみで記述しています(資料P12)。
 つまるところ少子化対策として出産育児一時金は成果として何ら実績のないものであると言わざるを得ません。むしろ政府は財源の確保として社会保障費の値上げを検討する口実になり、さらなる国民負担が増す一方になります。本当に必要な支援は一時的な給付よりも保険適用に移行したり、若年層への減税による経済的負担軽減により結婚・出産へ前向きな環境を作るべきだと考えます。

⑤出産費用の便乗値上げ

 政府が出産育児一時金の給付額を引き上げる発表をしたことで、新たな波紋が広がっています。一度はニュースを見た方もいらっしゃると思いますが、いわゆる「便乗値上げ」です。

記事によると普通分娩の費用が値上げされているというものです。出産費用といっても直接支払制度の専用請求書記載項目を俯瞰しても8項目の記載項目と多岐に渡り、様々な理由から値上げが可能であり、報道でいわれる「いたちごっこ」状態なのは否定できません。(資料P8)
補助金により支援はこのように特定の利権を生み出すことになり、結果として国民の負担として積みあがっていくのです。少子化対策の一環が回りに回って国民が効果のない政策に自分たちの財産を易々と渡してよいものなのか考えなくてはなりません。

⑥質問考えてみた

・平成6年より創設されたこの出産育児一時金制度について、段階的に給付額の引き上げをおこなってきたが、少子化対策としてどのような効果があったのか。また今回の引き上げによって見込める効果はどのようなものか。数値的根拠を出しているのであれば教えていただきたい。
 
・政府は令和4年度の一般会計税収が過去最高となっているが、なぜ税収増にもかかわらず後期高齢者(国民)に負担を強いるのか?今回の負担を後期高齢者に強いるその理由と根拠は何か改めて教えていただきたい。

・出産育児一時金の構成には一般会計が多く含めれており、交付税により構成されているにもかかわらず、なぜ社会保障費を引き上げる議論がでるのか。全世代に負担を強いるほど財源がないとは言えない状況とは言い難いなかで、引き上げる根拠を教えていただきたい。
本文で私の所感は記されているので、今回の質問は3点に絞りました。
今回も、ご拝読ありがとうございました。

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