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サードアイ ep21 信じる決意 (最終話)

 俺達は王のいるテーブルに向かった。国王と話す機会が俺なんかにも訪れるとは。ヒノエの手前、失態をおかさないようにと、柄にもなく緊張する。
 目の前にいる王は、見るからに威厳のある立派な人物だった。ヒノエともクロエとも違うオーラの輝きがあって、どこまでも澄んだ目をしている。この人の前では嘘がつけない、そんな感じがして身が引き締まる。
 俺は威儀を正して丁重に挨拶をした。王は俺の顔をまじまじと見ると、破顔しながら「こたびの活躍、大いに感謝します」と申された。そんな大層なことはないと思ったが、よく考えてみると、この人は、あのときのゴードン王子だと、ようやく腑に落ちた。何だか急に懐かしくなって、
「そっか、あの時の王子か。随分と立派になったもんだな」と、不用意な発言をしてしまった。
 ヒノエが凍り付いた。お付きの者たちも身構える。しまった、と思ったが遅かった。すると、王はおもむろに立ち上がり、握手を求めてきた。恐る恐る手を握り返す。
「君があのとき、私に大切なことを気づかせてくれなかったら、この計画は失敗に終わっていました。本当にお礼のいいようがない。深く感謝します」
 その誠実で真摯な有り様に、あの時の幼い王子と今の国王が直線で結びついて重なった。本当に、偉くなったもんだ。俺は嬉しさのあまり、握った手をぶんぶんと振った。さすがにこれはまずかったのか、お付きの奴らが慌てて止めに入った。
「これからも、ヒノエと共にこの星と平和を守ってください」
 そういって微笑んでから、王はゆったりと着席した。

 俺とヒノエはパーティーが終わると二人で会場を後にした。
「まったく、あれだけ注意したのに、なんたる失態。呆れてものも言えないわ」と、ヒノエはご立腹だ。
「すまない。つい、懐かしくなってよ。それにしても、立派な王様になったもんだ。頑張った甲斐があったってもんだな」
「まあね。あなたが王子をうまく説得してくれたからこそ、何とか作戦成功にこぎつけたわ。改めて、ご苦労様」
「いや、あの時は、お前がぐったりしちまって、どうしようかと思ったぜ。もっと手際よくやれてりゃあな」
「そんなことないわ。あれはあれで大正解だった。よくあの共依存の強固な鎖を解いたものね」
 ヒノエはいつもより饒舌で、いつになく素直だった。俺は、これからのことをいつ言い出そうかと、このところずっとタイミングを見計らっていたが、今がその時だった。
「ヒノエ、話がある」
 立ち止まって、彼女を見つめた。ヒノエも歩みを止めて、何事かというようにこちらを見た。俺はなるべく彼女を動揺させないようにと言葉を選んで告げた。
「オレは、三次元に戻ろうと思う。オレのいた町に行って、アリフを探し、説得してこっちに連れて帰ってくる」
 ヒノエは驚きで声も出ないようだ。俺は話を続けた。
「ブルーノにはもう言ってある。いつでも行ける準備が整っているそうだ」
 ヒノエがようやく口を開く。
「何の準備?もしかして、その身体のまま、降りていこうっていうの?」
 俺が頷くと、信じられないといった顔をしてヒノエが声を荒げた。
「バカじゃないの?行ったらどうなるか、わかっているでしょ?アリフはもう手遅れよ。あなたまで行ってしまったら」
「大丈夫だ。ブルーノのいう期限内で、ちゃんと戻ってくる。アリフを連れてな」
 ヒノエは何か言おうとしたが、珍しく口ごもった。しばらく考えてから、ようやく口を開く。
「承知したわ。あなたに賭けてみる。ただし、一人ででも、絶対に戻ってくること。いいわね?ここで約束してちょうだい」
 俺はヒノエの目をしっかりと見据えた。その赤い瞳は不安げに揺れている。俺は姿勢を正し、左胸に拳を当てて、彼女に帰還を誓った。

 ブルーノが準備してくれたのは、人一人がようやく動くことができるようなカプセルボックスだった。そこから身体ごとワープして時空を超えることができるという。
「実は、こっちのほうが随分前に開発されていたんでやんすが、こいつは身体ごと運んじまうんで、戻ってこれなくなる者が出たんでさぁ。だから封印しておいたんでやんすが、ここへきてまた使うことになるとは、いやはや」
「アリフはこれを使わなかったのか?」
「そうそう、アリフたちは、自分たちで見つけた穴から出ていったんでさぁ。たまたま時空の歪みからできた穴だったようでやんすよ」
 周りを見渡す。ラボのみんなが大勢集まっていた。マオミも下まで降りて来ていて、ドア付近にもたれかかっていた。俺と目が合うと、
「今度は忘れずに戻ってきなさいね」と笑って手を振ってくれた。
 ヒノエは任務中だということで、残念だが、ここには来ていなかった。
 ステファンが歩み寄ってきて、飛びかかるように抱きついてきた。
「せっかく仲良くなれたのに、もうお別れなんて、寂しすぎます」
「おいおい、今生の別れでもあるまいし、大げさだろうが」
 ステファンは俺の手を取って、
「だって、万が一でも戻ってこられなかったらと思うと。ボクはもう、あの時代へは追いかけて行かれないんですよ」と、今にも泣き出しそうに瞳を潤ませた。
 俺はヤツの背中を軽く叩いて、
「心配ない。必ず戻ってくる」と約束した。
「そろそろ、お時間でやんすよ。このタイミングを逃すと、あと数か月は足止めをくらうでやんす」
 ブルーノがそういって促したので、ボックスの中に入ろうとすると、慌てて俺を引き留めた。
「おっと、忘れてたでやんす。危ない、危ない。オーエン、伝言があるんでさぁ。信じてるからって、ヒノエがそう言ってたでやんすよ」
 そう言うと、ウインクして嬉しそうに笑った。
「さあ、いってらっしゃいみてらっしゃい。そして必ずもどってらっしゃい!」
 ドアが静かに閉まった。俺は三次元に向かうドーナツ状の穴をくぐり抜けていった。

第一章 完









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