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サードアイ ep17 去り行く理由

 ゴードン王子とその母との別れを見守って、急いでヒノエを連れて帰還した。ヒノエは集中治療室に入ったままのようだ。翌日、俺はブルーノの所に行った。
「これはこれはオウエン殿、遠征お疲れ様でやんした」
「ヒノエは無事か?」
「意識は戻りやした。まぁ、彼女は自家発電機みたいなもんだから、じきに良くなるでやんすよ」
「魂が消えかかってたぞ。普段はあんなことないのに、今回はどうしちまったんだ」
「エネルギーの使いすぎでさぁ。まあ、おそらくは、奥方の闇に呑まれたんでさぁね。さすがのヒノエでも吸収しきれないほどの深い闇だったってことでやんすね」
「今回はそんなに危険な任務だったのか」
「へえ、光と闇の戦い、でさぁ。当初はアリフの憑依能力をあてにした戦いだったんでやんすが、そのアリフがいなくなったもんで、計画はご破算になったんでやんすがね。オーエンが代役になれそうってんで」
「俺が、しくじったか。もたつきすぎたんだな、きっと」
「いやいや、オーエンのせいじゃないでやんすよ。むしろよくやったほうでさぁ。ヒノエの魂を抱えて超特急で飛んでこなければ、危ないところでやんした」
「光が闇に負けた場合、どうなってたんだ」
「すっかり取り込まれて、二度とこっちに戻ってこられなかったでさぁね」
 俺は、肝心なことは何も聞かされちゃいなかった。アイツはいつも自分だけで決断して自分一人で背負い込む。そんなに俺が信用ならないってのか。
「その、アリフってやつには、ヒノエは頼ったり、甘えたりできてたのか?」
 ブルーノは驚いたような顔をして、
「あれれ?ジェラシーでっか?」と、すっとぼけたことを言ったので、一発けりを入れてやった。
「いたたた、冗談でさぁ。真面目に言うと、ヒノエが心を開いていたのはアリフだけでやんしたね。まるで兄のように慕ってたんでさぁ」
 そのアリフを無くしてしまったヒノエの心情を思うと、やるせない気持ちになった。
「でも、オーエンがやってきてからというもの、ヒノエはようやく笑うようになったんで、みんなほっとしてたんでやんすよ、本当のところ」
「アリフは肉体ごと、下界に降りてったって聞いたが、こっちに戻るすべはないのか?」
「残念でやんすが、今の科学技術では、無理でやんすね」
「何でだ?おまえらは、俺の身体だって王のだって作れたじゃないか。何とかならないのか」
「身体はどうにかなるんでやんすが、魂の部分がねえ、なんとも」
「どういう意味だ」
「そもそも、四次元にいる人間の魂は、こっちの時空間に適合してるんでさぁ。だから、魂で下界に行くってのは、すっごいエネルギーを食うし、そうそう何度もできないんでやんす。レッドアイの連中、おっと失礼、レッドアイの方々は、向こうの世界の魂時間に合わせられるもんで。でも、長いこと住むとなると、話は別でやんす。アリフがあっちに行ってしまって、もう三年でさぁ。その間、魂は異常な速さですり減ってるはずで、やつの肉体の寿命が尽きるころには、魂も消滅するってことでさぁ」
「じゃあ、今からすぐに戻れば、大丈夫ってことか?」
「そうでやんすねぇ、おそらく半年以内であれば何とかギリギリってとこで、肉体もピカピカなのを準備しておいて、ささっと要領よくしないと。それでも、不適合を起こす可能性もあるもんで。ただ、こればっかりは、本人に戻る意志がないことには、ねぇ」
「じゃあ、オレが行って説得してくる。ヤツはどこにいる?」
「それが全くわからないんでさぁ。オーエンが会ったってんだったら、その時代にまだいるやもしれんし、違う時代の違う国にいってるやもしれんし」
 俺がアリフに会える可能性は、あの場所しかないだろう。
「オレは前の時代に戻れるか?」
「へえ、それは、ドンピシャのぴしゃっと、おウチに戻してさし上げまっせ。ただし、以前の身体へ入ってはダメでやんすよ。あれは不適合でさぁ」
「いや、俺が聞いてるのは、この身体ごと、あの場所に行けるかってことだ」
「ひえー、アリフのように、でっか?そりゃ、行けやすが、だって、今、説明したでしょうが。死んじまうんでっせ」
「半年以内に戻ってくるさ。アリフを連れてな」
 今の俺の肉体のままでアリフに会わないことには、たぶん話にならないだろう。何しろ、アリフは相当の覚悟を決めて、ここを出て行ってるってことなのだから。そして、その覚悟はおそらく、ヒノエに関係するものだろう。
「ブルーノ、おまえは、計画について、どのくらい知っている?」
「計画?軍の機密情報でっか?わてらは関知しないことでやんすよ」
「なら、具体的な話ができる人物を知らないか?ヒノエのことについて知りたい」
 またブルーノがくだらないことを言い出しそうだったので、にらみを利かせた。
「おっと、くわばらくわばら。そういうことなら、いい人を紹介できるでやんす。特別の別々、でっせ!」


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