ピエロ失格

　基地外かどうかは、本人が認めるかどうかで、判断できるかもしれない。
　「おれは基地外なんかぢゃない」と本気で思ってゐたら、ちょっと危険だと聞く。

　基地外については、自信が無いが、ピエロなら、これがうまく当てはまると思ふ。

　ピエロが「どうせ、俺は笑ひ者さ、ピエロなんだ」といふ自意識を持ったらダメ、もうピエロでなくなってゐる。

　ピエロといふ存在は、本人はあくまで真剣で真面目で一生懸命。
　悲劇の主人公だと信じ込んでゐる。
　或いは、間違った世の中を糺そうとする正義の味方。

　けれども、真剣にやればやるほど、
　真面目に取り組めば取り組むほど、
みんなの笑ひを誘ふ。
　失笑。憫笑。嘲笑。哄笑。

　要するに、何をやっても何を訴へても、すべてがみんなには滑稽で、くだらなくて、馬鹿馬鹿しくて、笑罵され、笑殺されるわけだ。

　一生懸命にやればやるほど、みんなの爆笑が大きくなる。
　ピエロがあんまり悔しくて泣き出せば、みんなは、腹を抱へて笑ひ転げ出す。

　それがピエロ。

　

　ここで、今日のいい言葉。
　「誰もがピエロ」。

　コメディアンといふのは油断のならない人たちだ。
　彼らは、ときに、冷笑を浮かべる。
　笑はれるのを嫌がって、自分で自分を冷笑するピエロは、他人を笑はせることのできないピエロ。つまりは、ピエロ失格である。
　そんなことはわかってゐて、わざとらしく冷笑を見せる。

　これは、「笑ってゐるお前らこそが、こっけいなのだ」と言ひたい気持ちを必死で抑へてゐるからだ。
　或いは、そんな気持ちが無意識の中で蠢いてしまったので、本人も自覚しないまま、冷笑を浮かべてゐるときもある。

　かう考へてくると、北野武的な、知的に世相を批判したり人心の荒廃を嘆いたりするコメディアンがキライな理由がわかった。

　笑ってる人を、心の中で笑ってるピエロの目を、むしろ、隠そうとしないで、それがなにか優れた能力であるかのやうに思ってゐるらしい点。