リミテッドにおける手順の歴史

突然ですが、皆様はこれをご存知でしょうか。

これは、テーブルトップのリミテッド戦に使用されるデッキリストです。リミテッドで使用されうるカードが全て記載されています。プレイヤーは使用できるカード全部(”カードプール”と呼ばれます)と、メインデッキで使用するカードをすべてこのデッキリストに登録して主催者に提出します。

競技的なリミテッド戦がテーブルトップで大々的に行われなくなって久しいですが、備忘録としてここに記事を記しておきます。

なぜデッキリストを使うのか

リミテッド戦においてデッキリストは重要です。なぜなら、デッキリストを使用しない場合、強いカードを自分で持ち込むことが比較的容易に行えるからです。このような「持ち込み」による不正を防止するため、競技的なイベントではデッキリストを用いてプレイヤーのカードプールの担保をします。もちろん、試合中にもデッキチェックが行われ、そのためにデッキリストが用いられるのは言うまでもありません。このように、デッキリストの使用は、イベントの公平性を保つのに一役買っているのです。

カードプールの登録

では、デッキリストにカードプールを登録するのはいつなのでしょうか? 

それは言うまでもなく、イベントの一番最初です。想像してください。あなたはリミテッドのイベントの参加者です。指定された席に座り、今日使うプロダクト(パック)が配られます。そしてそれを開封します。そしてそれらをカードプールとして配布されたデッキリストに登録していきます。

・・・お気づきの方もおられると思いますが、このやり方では当初の目的が達成されません。自分のプールを自分で登録するのですから、「持ち込み」したカードをプールに書き込めてしまうわけですね。つまり何かしらの作業がここで必要になります。

登録済みパック

これを解消する一つの手段は、「デッキリストにカードプールが記載済みのパック一式を配布する」というものでした。大規模なイベントではこのような「登録済みパック」が準備されていました。これは大きく2つの理由があります。

1つは、信頼できるスタッフ/ジャッジによるカードプール登録による記載ミスの低減です。リミテッドのデッキリストは先程もあったように持ち込みを防ぐためのものです。そしてプールでの登録ミスは、ジャッジを呼んで訂正を行ってもらわないといけない、という厳しいものです。不慣れなプレイヤーよりも、訓練を積んでいるスタッフ/ジャッジによるカードプール登録だと、ミスも少ないし訂正も最低限で済むのです。

2つ目は、時間の節約です。プールをプレイヤーに書かせる場合、どうしてもその分の時間が必要です。大規模イベントでは会場の閉場時間がタイトなこともよくあり、事前準備で節約できる時間はなるべく削ろう、という意思がありました。

ただ、「登録済みパック」には大きな欠点があります。それは、運営側の負担がとてつもなく大きくなるということです。かつては1000を超える登録済みパックを十数人で作成することになったイベントもあるとか。(前日に会場に挨拶にいったら、ペンを渡されて「はいパック作って。」と言われたことも筆者はあります。)

そのため、別の手段が考案されました。「スワップ/swap」です。

スワップ

デッキリストをもう一度見てください。名前を書く欄が2つあると思います。つまり、カードプールを確認する人と、実際にそのデッキを使う人が異なる可能性があるというこです。当初の手順はこうでした。

 指定された席に着席する。
→未開封パックが配布される。
→数を確認しながらすべてのパックを開封する
→登録開始のアナウンスがある
→カードを色別などでソートしてからデッキリストに登録する
→登録終了のアナウンスがある
→登録したカードプールとデッキリストを互いに対面のプレイヤーに渡す(*1)
→自分の眼の前にあるデッキで構築を行う。

この(*1)で示される手順がスワップ/swapです。つまり、他のプレイヤーが登録することによって、互いに持ち込みをさせないように監視させる意味合いがありました。スワップ自体は対面同士が一番簡単ですが、イベントによっては右隣や左隣、時にはそれらを無作為に組み合わせる場合もありました。右→右→対面、などですね。

スワップの欠点、というよりも盲点は、「自分で開封したパックでは構築できない」ことです。つまり自分で良いレアを開封しても、それは他人に渡ってしまうのでした。これが顕著になったのは、モダンマスターズ(2013年)のリミテッドが行われたときです。当初は高額カードが目白押しだったセットのリミテッドとあって、人気もありました。が、「自分で開封したカードをキープしたいから、デッキ登録前にドロップ/棄権する」というプレイヤーが多発しました。こうなると運営的には混乱のもとになります。ドロップするのはいつになるのかわからないプレイヤーがいたり、スワップするべきプレイヤーがいなかったり、1回戦目のプレイヤー数が大幅にズレたり、欠席確認に非常な手間を取らされたりといったこともありました。

シドニースワップ

これを受けて、2015年のシドニー/マディソンGPからは、以下のようなスワップになりました。

 指定された(できれば無作為化された)席に着席する。(*2)
→未開封パックが配布される。
→数を確認しながらすべてのパックを開封する
→対面のプレイヤーに開封したカードと名前以外未記入のデッキリストを渡す(*1)
→登録開始のアナウンスがある
→カードを色別などでソートしてからデッキリストに登録する
→登録終了のアナウンスがある
→自分のカードプールとデッキリストを対面から返してもらう
→自分の眼の前にあるデッキで構築を行う。

この方法では、自分の開封したカードは自分の構築するべきカードプールです。高額カードを引いたとしても、他人に渡ることはありません。また、(*2)の手順によって最初の席を無作為化することで、いつも同じ人や家族の方が対面や近い席にいることがなくなり、スワップする人が毎回同じではなくなるようになりました。以後、この方法はシドニースワップと呼ばれ、細かいところは変更されながらも、大筋においてほとんどの競技的なリミテッドイベントで採用されていました。

おわりに

2020年以降、COVID-19の影響などによって大規模なリミテッドは行われなくなりました。そしてリミテッドのイベントとしては、テーブルトップよりもデジタル、そう、MTGArenaのほうが管理も簡単で不正も起こりづらいのです。そのため、リミテッドのイベントの手順については継承が行われず、断絶があるようになってしまいました。この記事が継承の一助となることを期待して。


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