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『推しの子』アニメ騒動:事実関係の訂正と制作サイドの応援で十分

ゆっくりしていってね!

人気アニメ『推しの子』の6話で、「恋愛リアリティショーに出演したキャラクターが自殺未遂を起こす」という展開があったわ。

これについて、木村花テラスハウス事件のご遺族で、被害者の母親である木村響子氏がTwitterでつらい心情を吐露。


しかしながら、ヒトシンカさんが事実関係を詳細に整理している次の記事にあるように、このツイートの内容は真実だとは言えないわね。

一致度と名誉毀損・名誉感情の侵害の問題



詳細は上記記事を参照して頂くとして、『推しの子』の問題のエピソードは、「木村花テラスハウス事件」をもとにして作られてはいないわ。

よって、必然的に響子氏の言う「実際にあった話をそのまま使う」「丸パクリ」との指摘は当たらない。

また、もし仮に現実の事件をモチーフにしていたとしても、一般にそれだけでは基本的人権である「表現の自由」が保護する範疇から出ないわ。

仮に地下鉄サリン事件や911テロをモチーフにした創作物を発表したとしましょう。それによって遺族や「命からがら生き延びた人たち」「生き残りはしたが後遺症に苦しんでいる人たち」が深刻な不快感を覚えたとしても、当該創作物の修正や回収、損害賠償請求などを法的に成立させるには足りないのよ。

表現物が名誉毀損やプライバシー権侵害にあたるとして作家側が敗訴した裁判例・判例は複数あるけれど(三島由紀夫『宴のあと』、佐木隆三『女高生・OL連続誘拐殺人事件』、柳美里『石に泳ぐ魚』など)、いずれも創作上の「キャラクター」と、そのモデルとなった「実際の人物像」との間に相当高い一致があった上で、かつ名誉毀損・プライバシー侵害等の内実が伴うと裁判官に認定されたケースよ。

『推しの子』のエピソード及び登場キャラクターと、「木村花テラスハウス事件」の背景・経緯及び木村花氏の人物像は、少なくとも上記の裁判例・判例に比べるなら「非常に遠い」わ。


そもそもモチーフにしていないだけれど、モチーフだと看做しても、一致しているのは、せいぜい「恋愛リアリティショー」と「ネットで誹謗中傷を受けての自殺(の試み)」という2つの要素のみ。

もちろん、厳密には裁判官さんに判断させないと分からないけれど、まず、新聞記事やテレビニュースで扱われて「公知」になっている部分が使用されても、プライバシーの侵害ではほぼ争えないというのが、「宴のあと」事件の裁判例が出た後は通説よ。(通説が今後も裁判所で採用されるという保証は無いけど。)

次に、名誉毀損または名誉感情の侵害ね。アニメおよび原作のエピソードを見る限り、「実在する被害者の名誉を毀損・侵害して社会的信用を失墜させている。」と立証するのも厳しそうよ。一致度が高いとはただちに言えない以上、こちらも難しいわ。

その一方で、木村響子氏は、『推しの子』サイドには「実際にあった話をそのまま使う」「丸パクリ」と断定し、同時に「命日が近いタイミングにアニメ制作・放送側が意図的に(悪意をもって)被せてきた」旨とも取れる発言をしている。これについて、多数の人から事実誤認の指摘を受けたにも関わらず、2023年5月26日現在に至るまで事実認識の修正・撤回、または制作サイドへの謝罪といった対応をいずれも行なっていないわね。


『推しの子』という一次創作物に対して、根拠不十分なパクリ疑惑(つまり剽窃疑惑であり、著作権侵害疑惑)や悪意の疑惑をブチ込むことの方が、法的にはやべえのだわ。クリエイターの名誉を不当に失墜させているおそれがある。

ただ、このあたりも含めて響子氏は「うーん、ほとんど何も分かっていないまま、勢いでご発言されているのでは?」と思うし、外野からそう非難する程ではない――というのが私の所感よ。

様々な利害関係があって反論しにくいクリエイター側の名誉のために、こうして事実関係の訂正をすれば十分じゃないかしら? あとは普通の応援ね。

私が木村響子氏を一定擁護する理由

私が響子氏に対して「生ぬるい」と感じる読者さんも多いかもしれないわね。

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