#1 『aftersun』感想

『aftersun』の感想

 映画『aftersun』を観た。小さなシアターで、しかも観ている人は指の本数程度だった。数々の映画の賞にノミネートされたり、受賞していると聞いていたから、結構意外だった。でも観てみると、たしかに大衆ウケしそうな映画ではなかった。特に盛り上がるところもないし、起承転結もない。すべてが淡々と過ぎていくような映画だった。感想は難しい。
 あらすじ(というものが仮に存在するなら)はこうだ。

11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。

映画.com

 まるで、どこにでもあるような親子のホームビデオをずっと観ているような感じだった。とはいえ、だからこそ、「人生」をリアリスティックによく表現した映画だと思った。
 往々にして、人間の人生というものには、多くの物語とは違って起承転結のようなものがない。起承転のあたりで突然終わるかもしれないし、飽きっぽい人はずっと起承を繰り返し続けるかもしれない。あるいは、起すらない人生もこの世にはたくさんあるだろう。でも、だからといって人生はつまらないというわけではない。映画や小説で描かれるものよりも小粒でありふれたものかもしれないが、楽しかったり嬉しかったり悲しかったりするようなエピソードが、断章みたいにたくさん存在していて、それが人生を味わい深いものにしているのだ。『aftersun』で描かれていたのも、その人生の断章のようなものだろう。どこにでもいそうな親子が、どこにでもありそうな会話をして、どこにでもありそうな休日を過ごす。まったくドラマチックではなく、また起承転結もないが、だからと言って、この映画が面白くないわけではない。人生のように。
『aftersun』は映像も音楽も素晴らしく、もちろん内容もいいからもっと注目されていいと思った。

ついでに、『aftersun』が気に入ったら、ジョン・ウィリアムズ『ストーナー』という小説もおすすめ。これも人生を淡々と表した作品で、『aftersun』と違うのは、『aftersun』が人生の断片を描いたものであるのに対し、『ストーナー』はある男の人生を丸々描いたものであるという点だ。そういう意味では、『ストーナー』はまったく派手ではないが起承転結のようなものがあるわけだが、『aftersun』と同じように、人生について考えさせられる良作だと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?