「どこかに行きたい」を叶える大病院の中の小さなコンビニ【ドキュメント72時間】
NHKドキュメント72時間を観て感じたこと、調べた事を書くシリーズ。今回は2019年4月17日に再放送された(最初の放送は、2014年)「大病院の小さなコンビニ」。
今回の再放送も、新型コロナウイルスに関係したお話。舞台は千葉県鴨川市にある亀田総合病院。武漢からチャーター機で到着した人たちをホテルで診たのがこの病院の医師と看護師だったそう。今回も「あれから6年」としての追加のスペシャルエディションがあった。今の病院の姿や、院長が武漢から来た患者受入れの話をしたりなど。
さて、コロナの話は一度置いておいて本題に戻りたい。大病院の中にあるコンビニには、入院患者、その家族などお見舞いに来る人達、外来の患者さん、病院職員、看護師、医師など様々な人が訪れる。
病気とは切り離されたオアシス
観ていて感じたのは「買い物って楽しい」ということ。
「毎日来てます。癖なんですよ」という医師をはじめ、病院関係者、入院患者さんがまさに日課のように訪れている。病院は、シャバとは切り離された特殊空間だ。その中で、必要なものが買えるという実利だけではなく、一息付きに来ている、日常を取り戻しに来ているのだ。
入院して1週間もたっていないが服をもう5着も買っているという初老の女性、毎日早朝に新聞を買いに来る癌で入院しているおじさん、これから旦那さんが手術で気を落ち着かせるために雑誌を買いに来る女性…患者さんやその家族にとっては、この大病院の中での唯一の病気とは切り離されたオアシスのようになっている。
患者さんだけではなく、病院職員や医師、看護師にとってもやすらぎの場となっている。「癖なんですよ」と言っていた男性の医師が、10分店内をぐるぐる回って買ったのは「じゃがりこ」1つというのには笑った。そしてなんかわかる。何か欲しいものがあるわけじゃないんだけど何か買いたい、もしくはコンビニに行きたいのだ。その結果、買いがちなのが「じゃがりこ」…笑ったというか自分のチョイスと一緒過ぎてドキっとした。
そして、おそらく多くの視聴者(特に男性)がもっとも印象に残ったのがレッドブル一気飲みの産婦人科の女医さんだろう。年齢は30歳で、まだ医師になって4年だという。まぁこういったらなんですが、まずすごくかわいらしいのだ。笑顔がかわいい。そのかわいい女性がレッドブル一気飲みというギャップが男心をくすぐる…。
ビジュアル面は置いておいても、非常に印象的な言葉、姿を残している。彼女は2度登場するのだが、1回目は夜勤からの日勤突中というオンモードの時、ここでレッドブル一気飲みをしていたわけだが。この時は「楽しいです。おめでとうって言えるのうちの科だけなんで」と最高の笑顔で登場する。2回目はその日勤が終わって家に帰る前というオフモード時。この時は、心底疲れた顔で、家に帰ってもなかなか寝付けないと「扱っているものが重すぎて。生まれてくる命ですもの」と目にうっすら涙をうかべて話した。
大病院の中のコンビニはひと時のオアシスではあるが…まだまだオンモードで一息つけにくるのと、オフモードで来るのとでは違った顔を見せるのだった。
ちなみに彼女、今やなかなかの有名人で、本まで出している。性教育に熱心に取り組んでいるようだ。
どこでもいいからどこかに行きたい
話を戻す。この大病院にコンビニがある意味は、やはりすごく大きい。おそらく人間だれしも「どこでもいいからどこかに行きたい」のだ。今目の前で抱えている現実が重ければ重いほど、10分でも、1日でも、1週間でも、どこかに行きたいのだ。たとえ、ちょっとどこかに行ったところで現実が変わらないとわかっていてもだ。
「どこでもいいからどこかに行きたい」というのは、phaさんという方が書いている本の名前だ。phaさんと言えば「京大卒・元ニート」の肩書きで知られるブロガーだ。この記事を書きながらふとこの本のことを思い出したのだ。
彼はこの著書の中で、家にいるのが嫌になったら突発的に旅に出る、そこにはどんな意味があるのか?ということを書いている。旅に出ても特に変わったことはしない。土地の名物なんて食べないで吉野家で牛丼食べているそうだ。「多分、僕が求めているのは珍しい経験や素晴らしい体験ではなく、単なる日常からの距離だけなのだ」「身を置く環境を変えてみると、自分の行動のどの部分が周りの影響でやっていたことで、どの部分が環境によらず自分がやりたいことなのかが見えてきたりする」と言う。
そう日常からちょっと距離を置くことで、日常の中で自分がどんな影響下に置かれているのかを感じることができるのだ。病院では、もちろんそれは「病気」なわけだ。コンビニ一つで、いれてせいぜい数十分の旅では、影響下から逃れることはできないかもしれない。それでも、逆にそんなわずかな時間すらもものすごく貴重なのが病院なのかもしれない。
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