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野焼きの陶芸家 甲斐さんとの出逢い 

打ち合わせのために、大分竹田のHi! Yoriyoに伺ったのは、
まだ寒さの残る3月のある午後のこと。

カフェの奥にある窓辺の部屋で待っていると

なおみさんが、もう少し待ってくれる?
と言って、コーヒーを出してくれた。

まだ他の仕事で手が離せないようだった。

北九州から竹田まで3時間の運転をした後だったから、少し気持ちを落ち着かせるには、この空白の隙間がありがたかった。

心を落ち着けてコーヒーを静かに飲むことにした。

目の前に置かれたコーヒーカップは、青い顔料を塗りこんだようなザラつき感のあるものだった。
その肉厚的で柔らかな形は、マチスの絵のような逞しい女性的なフォルムにも見えてきた。

窓の外の青い空とコーヒーカップのblueが、そのままアート作品のように見えてきた。


実際は、もっと鮮やかなblue

写真を撮るけど、光のコントラストのために実際のように素敵に映らない。諦めてコーヒーを飲もうとカップの取っ手を握ると

ムム・・・ ゴルゴ13ではないが・・・

手にしっくるとくる肉厚の取っ手とザラついた質感に、思わず唸ってしまった。

なおみさんが戻ってきた。

このコーヒーカップ、めっちゃ素敵ですね!

特に取っ手の感じがとっても好きです!!! 

長湯在住の陶芸家、甲斐さんの作品だと教えてくれた。

カフェにも何点か販売用の作品が置かれていた。

その時に気づいたのだけど、Hi! Yoriyoのコーヒーカップの
ほとんどが、僕が手にしたblueのものに統一されていた。

カフェのオープンの時に、なおみさんが甲斐さんにこだわってblueをオーダーしたのだろうか。
どれも微妙に色も形も異なっていて、一つひとつが手作りされたのが分かる味わい深いものだった。

今、まさに手にしているコーヒーカップが欲しかったのだけど、この顔料を塗りこんだようなblueのものは、カフェでも販売していなかった。残念

同じものがなくても、このコーヒーカップの”取っての感触”が最高だったので、近いような淡いblueのものを、ちょうど東京で会うことになった友人の分と自分のを2点購入させていただいた。

甲斐さんって、どんな方なんですか?

何も食べてない僕のために、ぜんざいを作ってくれながら、
なおみさんは言いました。

甲斐さんねー

土のことにめっちゃ詳しくてねえー

アーティストというより、チャーミングなおいちゃん。
(大分弁で、おじさんのことをおいちゃんと言う)

そう、ぜんざいが好きだから、呼んだら来るかもよー

土のことに詳しい!!!😃

『大地に繋がる』を最近のテーマにしていた僕は、甲斐さんに会わずにはいられなかった。

数日後
購入したコーヒーカップがどれだけ素敵で、特に取っ手が大のお気に入りなことをメッセージすると、
甲斐さんから遊びに来てもいいよ!とお返事があった。

そして、翌月
長湯のキリシタン遺跡近くにある甲斐さんのご自宅を訪ねた。


甲斐さんの家の前の風景 遠くに久住連山(7月8日の甲斐散歩から拝借)



甲斐さんは、なおみさんが表現した通りのチャーミングなおいちゃんだった。めちゃめちゃ笑顔で迎え入れてくれた。

ご自宅のギャラリーには、コップ、器など様々な甲斐さんの作品が置いてあった。

見回しても、カフェの鮮やかな青いコーヒーカップはなかったが、
何点か綺麗なblueや朱色が浮かび上がった一輪挿しやうつわを見つけた。


朱色、辰砂をおびた一輪挿し

これは?と聞くと。

釜ではなく、野焼きで創ると、このように土に混じったものから、不思議な色が出てくるんです。と甲斐さんは丁寧に教えくれた。

この朱は、辰砂(しんしゃ)! 賢者の石!!!ですよ
この長湯には、かつて銀の鉱山があったのではないですか?

辰砂に一人で興奮している僕を面白がってくれた。

そして、こんな綺麗な青や朱の色合いで、あの”取っ手の”コーヒーカップがあったら素敵だなーと僕が呟くと・・

甲斐さんは、そうですか・・・ と沈黙を残しながら

次回のわたしの宿題にしましょう。と言う。

宿題なんてめっそうもない。
でも、もし野焼きでのコーヒーカップが出来たら教えて下さい。
その時は、飛んで参ります。

そんな会話をしてから、丁寧に見送られながら、ご自宅を後にした。

それから、2ヶ月後、甲斐さんのFacebookに、

I(わたしだ!)さんとの約束の野焼きが出来ました!
と書いている記事を発見した。

一人のアーティスト、陶芸家が、なんでもない僕との約束に向き合ってくれていることに、感動が込み上げてきた。

すぐに甲斐さんにメッセージを送って再びお会いする約束をした。

小雨の降る中、長湯の田園風景の中にある甲斐さん宅に伺った。

いつものように出迎えてくれ、お部屋に通していただくと、

テーブルの上には、野焼きによって創作された4つの作品が並んでいた。

野焼き直後のコーヒカップ (甲斐さん写真)

一つひとつの作品を手に取りながら、その色と手触りを愛でていく

うつわの表面に顕れている、鮮やかな銀色やblue

さらに火を浴びて強化還元された、補色の赤(朱色)や黄色

うつわの表面には、火と激しく格闘したその跡が燃え尽きた籾殻とともに残っている


大地である土を、野で焼き、火を起こし現れる銅やコバルト、そして聖なる銀塩の赤


あらゆる経験を積んだ芸術家が、この世界を存立させる、土、火、風、空、水、そのすべての要素と戯れて

僕のなんでもない、一言を、宿題と受けとめて

久住連山を背にした田園の中で、なんと粋な火遊びでしょうか!!!

この野焼きの作品が創られるまでの、甲斐さんとの交わりが、とっても懐かしいような気がして、また心が躍る時間で、本当に嬉しくてしかたなかった。

そして、一人のアーティストが僕の言葉を受けて創作してくれ、その唯一無二の作品をお迎えする。こんな贅沢なことはありましょうか。

その他にも、野焼きシリーズとは全く別物の真っ白い白磁の器も創られていて、その一つをおまけでプレゼントしてもらった。やったー


丁寧に作品を丁寧に梱包してくれる甲斐さん


部屋の片隅に置いてあった『今日の芸術 岡本太郎著』を見つけると、昭和30年の5月に発行された初版のものだった。

1970年の大阪万博のシンボルとして建てられた太郎の「太陽の塔」が完成した時には、この塔まで走っていって、抱きついたんだ!
と甲斐さんは嬉しそうに語ってくれた。

そして、この本の中に書かれてある、アンリ・ルソーの絵に大きな影響を受けて、それが芸術活動の血肉になっていることも話してくれた。

大切な本だから、この本の新装版が出る度に、購入して手元に置いてあるのだろう。

本当に、チャーミングなおいちゃんだけど、甲斐さんに中には、ずっと太郎の太陽の塔を追いかけた時の熱いものが、野焼きのように、新しい何かが生まれることにワクワクする心が、今も静かに燃え続けているのだろう。

今度は、野焼きを体験したい!

いいですよ! 石山さんがワークショップ企画して下さい。
野焼きで遊びましょう!!!

甲斐さんは、どんなものも受け止めるんだろう。
素敵な笑顔で答えてくれた。

いつやるかまだ分からないけど、年内にやりたいなー

甲斐さん、またお饅頭を持って会いにいきます。

その時に、ワークショップの作戦を考えましょう!!!

一緒に野焼きをしたい方、募集しています。






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