霧に似て

ラジオで最近よく流れる歌を覚えてしまって、それは決して好きな歌ではないという確信があるのに頭の中で響き続けている。何かを考えようとしている時、あるいは何も考えていない時に、その歌は降りてくる。何度も聞かされた冒頭のメロディと、音としてしか知らない曖昧な歌詞が、前触れもなく再生される。霧を見た。遠くの木々に薄くかかっていた霧は、気がつかないうちに密度を増していて、あっという間に十メートルほどしか周囲が見えなくなった。私は、ひと目で濃霧だと分かるまでそれに気が付かなかった。聞くことや、肌に触れること、あたたかさやつめたさで知覚するでもなく、霧は見るものだった。そして歌が流れる。この、決して好きではない、ささやかに厭わしく思う歌を、私は覚えてしまって、ラジオから流れなくなる日が来たとしても、思い出そうとすれば思い出せるほどには記憶されているだろうことを、ぼんやりとしか憎めないのだろうと思っている。


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