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多和田 葉子『献灯使』(講談社文庫、2017年)を読みました。

国際的に評価される小説家による“ディストピア”小説集。表題作では、脆弱な肉体しか持てない若者、なかなか老いる/死ぬことができない老人、生きているうちに性別が変わってしまう肉体など311後の転換を象徴するようなストーリーが続きます。他の作品でも、「もう後戻りできない」物語が綴られます。今回の感染症も時代の分岐点になりそうですが、来る時代に思いを馳せるお供によいのかもしれません。

本書より…

リス 人間に自分の身体を撫でさせるだけでも変態だと思う。

ウサギ でも人間に撫でてもらうと、うっとりすることもあった。人間は不思議な能力を持っていてそれをエロスと呼んでいた。人間がキャベツを撫でると、キャベツはどんどん大きくなっていった。人間が蕾に接吻すると薔薇の花は一日早く咲いた。

リス それって遺伝子操作?

ウサギ ちがう。自然と人間との恋愛関係。でも人間の一番いいところは、われわれウサギを春の神様として崇めていたこと。

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