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安西 洋之『「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?: 世界を魅了する〈意味〉の戦略的デザイン』(晶文社、2020年)を読みました。

エコシステム論でシリコンバレーの模倣政策に集中するのが不毛であるようにイノベーションの多様なありかたを知るのは重要だと思います。ベルガンティらによって唱えられている「意味のイノベーション」の影響は日常生活でも感じられるようになってきていますがそうしたイタリアのイノベーション思想を掘り下げたのが本書です。イタリア流の職人気質であるアルティジャナーレとイタリアの審美感から価値の創出が掘り下げられます。イタリアは何か身近な国のように感じることもありますが、日本人にとって実はまだ良く知らない国なのかもしれません。この手のイタリアのイノベーションやデザイン、職人性の紹介としては多木陽介さんの本がありますがもっと知られるべきことと思います。私がアメリカに留学していた頃に出会ったイタリア人は知的な訓練を受けた骨太の教養人で個を持つ魅力的な人々でした。イタリアは子供の頃に一度訪れただけです。もっとイタリアを知りたくなりました。イノベーション論として重要な一冊です。

本書より…

意味はコンテクストと不可分の関係にある。したがって技術的にずば抜けたものがなくても、市場にインパクトを与えられる、というのが意味のイノベーションである。ここでいいたいのは、技術の進化が不要ということではない。技術の進化を必要十分としないイノベーションの可能性を語っているのである。
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しかし、デジタルとグローバル市場ばかりでスケールするモデルを求めすぎたことで、アナログの「そこそこ」のエリアで、「そこそこ」に稼ぐビジネスのモデルが見逃されてきた。そうこうしているうちに、先に述べたようにイノベーションの軸は「テクノロジー」から「サービス」に移ってきたのである。
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大きなデザインには陥りやすい罠がある。誰もが参加しやすいプロジェクトの前提条件である「可視化」を重視するあまり、「審美性」を軽視せざるをえないことがある。「美しい」「ダサい」との判断は、個人の資質や育った環境によるセンスに依存することが多いため、大きなデザインのプロジェクトでは「美醜については語らないことにしよう(だから、君も参加しやすいでしょう)」との展開が図られる。

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