35歳のおじさんと14歳の少女

出身の卓球クラブで、今でもお世話になっている先輩がいる。社会人となり、クラブに里帰りした際も、2回ご自宅に泊めてもらった。ここ数年は、たまに電話もくれたりする。忙しいとスルーしてしまうのだが、すみません...

先輩の娘さんも卓球をしており、今まで2回、試合会場で会える機会があった。先輩からは「娘とおうたか？」と聞かれたが、「あー会場での仕事が忙しくて会いに行けませんでした」と答えていた。

忙しいのは事実なのだが、正直、会いに行こうと思えば行けた。でも、僕は娘さんと面識がないのだ。

正確に書くと、完全に酔っぱらって泊めてもらった時に、会っているはずではある。その時は、娘さんも小さく、深夜に帰宅した時は寝ていたはずなので、恐らく、朝挨拶した位だと思う。

と言っても、僕が子供だったら、「お父さんが知らない兄ちゃん連れて来たけど誰やねん」と思っていただろう。

その程度なので、わざわざ挨拶に行く必要ないだろうと思っていた。そもそも、（当時）13歳の女の子に、34歳のおじさんが会いに行く。そんなシチュエーションは周りで聞いたこともないし、どうしたらいいのかもイメージが分からなかった。

冷静に考えてみよう。

34歳のおじさんが、面識のない13歳の女の子に会いに行く

ここは、新宿でも池袋でもない。これは完全にNGの行動なのだ。新宿でも池袋でもNGなのだが。

そして1年が過ぎ、昨年末、娘さんが試合会場に来る機会があった。2回も「娘とおうたか？」と聞かれていたので、今回はタイミングを見て挨拶に行こうと決意した。

さて、どのように会うか？

普通に、「こんにちは、照井です！」と言っても、「は？誰やねん、このおっさん」みたいな顔をされる可能性は十分にある。

僕だったら、中2の時に知らない人に声をかけられても、同じように不審に思うはずだ。

14歳の女の子なんて、未知の生物過ぎて、全く想像がつかない。色々と考えたが、答えは見つからない。

お父さんにはすごくお世話になっているから、「お小遣いあげるか」とも考えた。最後に「これでお菓子でも買ってね」と言えば、悪い気はしないのではないか。

これは我ながら悪くないと思った。嫌らしい気持ちはなく、ほんの少ししかない。先輩にお世話になった分は、後輩にその分を返す。これは普通のことだ。

とりあえず、挨拶に行き、その場の雰囲気で考えることにした。

そして、娘さんが会場に来た。遠くでどこにいるかは分からないが、観客席に監督さんやチームメイトと座っている。

「あそこには行きにくいな」とタイミングを見計らっていると、こちら側に来るタイミングがあった。

「ここしかない」と思い、娘さんに近付く。周りに人が多く、どの子が娘さんなのか探す。

発見したのだが、すぐに足が行かなかった。

なにせ

35歳のおじさんが、面識のない14歳の女の子に会いに行く

「あぁ、誰やねんという顔をされたらどうしよう」「キモいと思われたらどうしよう」と、完全に童貞思考で頭がいっぱいになる。そのまま35歳の童貞は勇気を出し、14歳の少女に近付いた。

先に、監督さんがいたので、挨拶をした。つまり監督さんをワンクッションに使わせてもらったのだ。

ボーリングでいえば、投げる前の素振り。二重飛びであれば、普通に2回飛ぶやつ。卓球でいえば、ネット際で手汗を拭くやつ、の役目が監督さんだ。

そして、後ろを向いていた娘さんの肩を震える手でトントンを叩き、「こんにちは、照井です！」と挨拶をした。上手く童貞臭は消せたと思っているが、トントンこそ気持ち悪いのではないかと反省をしている。

「は、誰やねん？」という顔をされることを想定し、罰ゲームでデコピンをされる時みたく、身体を硬直させていると、

「あー！朝パパからLINE来て、聞いてたよー」と想像を裏切るとてもピュアな答えが返ってきた。

35歳のおじさんは一瞬で感動してしまった。

そこから一言二言話したのだが、激しい安堵感により憶えていない。お小遣いも隣に監督さんとチームメイトがいるので渡すタイミングが無かった。

最後に「応援してるから頑張ってね！」と伝え、35歳のおじさんは大仕事をやってのけ、満足感に浸った。

大晦日、ばあちゃん家に帰省した際、この時の話を家族にした。

「普通に考えて35歳のおじさんが、14歳の女の子に話しかけるって相手からしたら怖いでしょ？」「お小遣いあげようか迷ったんだよね」

すると母親が、「お母さんも、あなた達の全日本選手権の応援に行っていると、たまたま昔の先輩に会って、子供達にって、お小遣いもらったことあるよ」「やっぱり、歳取ると知り合いの子供にはお小遣い上げたくなるんだろうね。歳取った証拠ね」と初めての話を聞いた。

今年36歳、寅年の年男。照澤社長として、知り合いのお子さんには積極的にお金配りをしたいと思います。