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農家規模と生産性~途上国においては小規模農家の効率性が高い?~

 直感的には機械を導入して大規模小労働力の農業を実施したほうが小規模農家よりも効率がよいと思っていたが、国の発展度合いによってはそうでもないらしい。今回は、大塚啓二郎著『「革新と発展」の開発経済学』を引用する形でこの内容をまとめたい。

1.賃金が低い開発途上国においては、家族労働に依存する小規模農家の効率性が高い傾向がある???

 直感的に、農業の生産効率性と農家規模の関係は正の相関関係にあると思っていたが、どうやらそうではないらしい。大塚氏によれば雇い主が雇用労働者の働きぶりを監視するのにコストがかかるため、この関係性はむしろ負の傾向となるとのこと。

広い農地で雇われた労働者が肥料を均等に散布したか、雑草を根元からしっかりに引き抜いたかを判断するのは容易ではない。万が一それが分かったとしても、どの労働者に責任があるかを判別することは不可能に近い。つまり、労働の監視費用が高いのである。

 そのため、賃金の低い開発途上国では、農家規模と生産性に逆相関(Inverse Relationship)が観測されてきているとのこと。実際に、アジアでは小規模農家主体で緑の革命がなされており、小規模農家で高い生産性を実現することは不可能ではないはずである。

2.賃金の上昇とともに農家規模と生産性に正の相関がみられるようになる
 賃金の上昇に伴い労働コストが上昇すると小規模農家の生産性は落ちることになる。この場合は、労働コストを節約すべく、機械化を導入すべき。特に大型機械を導入する場合には、初期投下資本を回収すべく一定程度の規模の農地が必要となり、その結果、農家規模と生産性に正の相関関係がみられるようになる。

3.政策的な課題
 
以上の通り、賃金及び機械化の観点から小規模農家と大規模農家の生産性が変化する傾向にある。政府はこの傾向にしたがい政策をうまく転換し農家を性向を変化させる必要があるが、なかなかうまくいっていない。筆者は別の論文で以下の通り指摘している。

(1)アジアの農家は、小規模で機械化が進まず労働集約的な栽培方法を採用しがちである、(2)他方で、アジアの多くの国々では経済成長の結果として賃金が上昇している、(3)そのために、労働を多く投入している小規模農家の生産費はとりわけ多く増加している、(4)にもかかわらず政策的に小規模農家が温存されているため、アジアの多くの国々の農業では生産費が上昇し、農業の比較優位が失われつつある。

 従い、経済合理性の観点に立てば、農地の貸借市場を抑圧したり、農地の保有上限を設定したりして、農家規模の増減を制限するような政策はとるべきではないとのこと。


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