ハノイの苦いおもひで
なんか土産でもらったインスタントのベトナムコーヒーを飲んで、ふとベトナムに転勤になった時の事を思い出した。
初めてベトナムコーヒーを飲んだのはハノイ郊外の雑貨屋だった。
同僚とセミナーか何かに出た後に何となく立ち寄ったのである。
銭湯にあるような椅子に座りコーヒーを頼んだ。
おばあちゃんはお盆にのせたガラスコップを運びながら、底にへばり付いている蜘蛛の巣っぽい何かを”ふっ”と吹き飛ばしていた。
「言っても仕方ないんだろうなぁ。コーヒーの熱で殺菌されるだろうからまあえぇか。」
とぼんやり考えながら本で見た通りのフィルターが載せられお湯が注がれるのを眺めていた。
しかし遅い。抽出されたコーヒーが滴ってくるのが遅い。
こんなに時間が掛かるのか。。
これじゃ冷めちゃってコップの殺菌は無理だな。
ならばどうやってこのコップをこいつに飲ませようかと、コーヒーが滴っているコップと同僚に交互に目をやっていた。
悠久の緊張を経てようやく抽出が終わり、いよいよおばあちゃんがフィルターを取った刹那、私が目にしたのは「はいよ」と件のコップを優しく私に渡してくれた同僚の満面の笑みだった。
そうか。これがこれからのベトナムでの生活なのだ。
私は覚悟を決めて11月の寒空を見上げるのであった。
ハノイのコーヒーは苦い。
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